所謂巻き込まれた一般人(2)
「テス、テス、チェックワンツー、聞こえるですかー」
ぼんやりとした意識の中、子どもの声が聞こえる。
飲まず食わずで路上で泣き続け、涙も枯れ果てた。何時間そうしていたのか分からない。自分が泣きつかれて路上で眠りこけていたことに気づく。初めて理解できる言語で話しかけられ、頭が徐々に冴えてくる。
「あ、生きてるっぽいですね。とりあえずこれを飲むです。ちょっと元気になるです」
鼻先に何やらほんのり甘い香りのするコップを突きつけられる。ゆっくり身を起こし、少しずつ喉に流し込む。
「果実水です。お姉さん、何も食べてない時に固形物だとお腹びっくりするですから」
おねえさん。この世界に来て初めて呼ばれた。現実世界ではこれでもかと呼ばれてきた懐かしい響きに、再び視界が歪む。
「お、お口に合わなかったですか?」
「ちがうの。…ありがとう」
「よかった。おねえさんちゃんと人間です」
不思議なことを言うちびっこだ。そもそも言葉が通じるという時点で只者じゃない。
「そうだよ。人間だよ。魔王の手先じゃないよ」
「そういうことじゃないのです。きちんとお礼を言えるのはちゃんと人間なのです。ノムのお母さんも言ってたです」
「君、ノムさんって言うのね。私カナデ。」
「名乗ってくれるですか。ちゃんと人間なのです。すごいです」
よくよく見ると、ノムの耳は尖ってピコピコと動いている。子どもに見えるが恐らくエルフなどの長命種なのだろう。さんをつけたのは正解だったようだ。
「カナデ、それ飲んだらちょっと一緒に来るです」
「ちょっとまって」
硬い所で寝ていたので体がガチガチに固まっている。起き上がるだけでも一苦労だったのに立ち上がるのにはかなりの労力が必要と思えた。
「心配ないです。魔法があるです」
そう言うとノムは虹色のチョークのような物を取り出しカナデの周囲に花のような幾何学模様を書き始めた。軌跡は虹色の光をまとい、よくよく見ると小さな何かがふよふよと浮いている。
「何、この小さいの」
「カナデ、精霊が見えるですか?」
「精霊なんて居るの?」
「なんてとは失礼な。普通の人間は精霊が見えないし敬意も払わないです。なのに力を行使しようとするです。歪むのは当り前なの、です」
陣が眩い光を放つ。
「待って、まだ飲み終わってな」
「黙るです。舌噛んでも知らないです」
視界がホワイトアウトする。次は硬い地面でないことを祈るばかりだ。




