強くてニューゲーム5
しこたま頭を打ちつける。やたら暗い所に転移されたようだ。なにやら悲鳴も聞こえる。
(脚…?机の下かな?)
「ちょちょちょ、ちょっと‼何者ですかアナタ」
「あー、すみませーん、すぐお暇しますので、ちょっとズレていただいても良いですかね」
「え?あ、…はい。どうぞ」
相手も相当混乱しているようだ。混乱するなと言う方に無理がある。突然足元から、何もなかったハズの場所から人間が1人出てきたのだから。
「座標がズレちゃいまして。ただこれからどこに行こうかも全然決まってないもんで、どうしようかと」
机の下から出てくるとグッと伸びをする。
「転移陣…ですか。座標のフリー指定だなんてそんなデンジャラス…な…」
声の主のほうを振り返る。尖った耳、艷やかな金髪の男性。
「‼カナデさん‼帰ったんじゃなかったんですか‼??」
「こんにちはー。十年ぶりですね、グリムさん。覚えてくださって嬉しいです」
努めてにこやかに、ただその声には些かの怒気を含ませるのも忘れない。
「確かに…それくらいにはなりますか。しかし10年も経てば只人なら色々見た目が…変わるはずなんです…が…」
上から下まで舐めるように見つめられる。
「はい。10年前の世界から来ました」
「じゅ…」
グリムは目眩を禁じ得ず、そのまま椅子へと倒れ込んだ。
「え、次元間跳躍の術式…でしたよね。時間を飛び越えるなんて、そんな…ありえない…ありえない…え、構文的には…ああ、当時の資料を…」
(駄目だ。目が完全に逝ってしまわれてる。正直に話しちゃマズかったか…)
「お、落ち着いてください、マスター。そうだ、またマスターのスペシャルブレンドが飲みたいなって…てへ」
「てへ、じゃないです。ちょっと失礼」
グリムはカナデの両腕を掴むとじっとその目を見つめる。カナデの目から見るとチラチラと光るものが飛び交うので、何らかの魔法が作動していることだけは分かる。鼻息がかかるほどの距離なのに一切感じさせないのは、息を止めているからだろうか。
やがてひとつ大きく息を吸うと、またどっかりと椅子に腰を下ろした。
「駄目だ…全部弾かれた…」
「と、言いますと?」
「カナデさん、単刀直入に聞きます。今回の時間跳躍の際、【世界の言葉】を聞いたとか、新たなスキルを手に入れたとか、何か前回と変わったことはありましたか?」
「質問を質問で返さないでください」
「ああ、失礼。とりあえずこちらに座って待っていただいても?お茶もご用意しますから」
コロコロと変わるグリムの顔色に訝しさを禁じ得ないが、言われるがままに腰を落ち着ける。尻を包み込むソファーの感覚に、ようやく現実に戻ったような安心感を覚える。




