カウントダウン7
細い路地。ほぼ下着姿の女たちが客引きに勤しむはずの花街は活気がなかった。
「ねえ、表の甲冑さんたち、外国要人の警護の人でしょ?風俗営業は自粛しろ、なんて馬鹿げてるわよね」
「ほんそれー。甲冑さんたちも賢者になっちゃえばいいのに」
「それな」
煙管の煙を燻らせながら井戸端会議をしている女性たちの中に、見慣れた人物を発見し、急降下して彼女の目の前に落ちる。
「きゃ!」
「ん、なんか銀色じゃね?不思議生物?」
女性たちの視線に居た堪れなくなる。
(うう、今日はいつもの服じゃなかったから、服の霧化に失敗して今素っ裸なんだよな…恥ずかしいけど、ちょっとクセになりそう)
「…あ」
キャシーことミランダが何やら気づいたようにコウモリを摘む。
(優しく摘んでくれるの、愛)
「ちょっとキャシー、野生生物だからばっちいよ」
「絶対死にかけだしー」
「んー、ちょっとケガしてないか明かりの所で見てきていい?」
「え、まさかの小動物に優しい系?」
「そこにしびれる憧れるー、なんつって」
女性たちの嬌声をよそにそそくさと店に入り扉を閉める。
「…何やってるのよ、あなた」
(魔力の波長で分かるって言ってたけど、本当にわかるんだな。愛)
「随分可愛くなっちゃって。…しゃべれないの?」
(はい、しゃべれません。抱きしめてトゥナイ)
「…しゃべれないの良いことに変なことばっかモノローグしてそうね。このムッツリ」
(はい、その通りです。すんません)
「はあ…で、私の所に来たってことはめちゃくちゃ困ってるってことね」
(さようでございます)
「もしかして、表の甲冑さんたち?」
(Yes!Yes!Yes!Yes!)
「街から出たいの?」
(…なんでわかるの)
「そんな気がしたのよ。行くわよ」
キャシーが往来を歩く。さすがに花街以外で下着姿で行くわけにもいかないので、羽織ものは欠かせない。羽織ものの下からは尻尾を出し、頭にはコウモリを載せるという斬新な格好は、キャシーの人間離れした美貌と相まって、道行く男たちの心臓を鷲掴みにした。
「おい、女、往来で客引きとはけしからんぞ」
一人の警吏に呼び止められる。
「えー、お店のイベントでコスプレしてるだけでー、普通にご飯買いに行くだけなんだけどー」
「そ、そうか。…今度行くからな」
「お待ちしてまーす」
とびきりの営業スマイル。冒険者の顔とのギャップに引きながらも、必死でキャシーの頭にしがみついている。
―
「ふう、これで借りは返したわね」
(ん?貸しイチじゃないの?)
門の外でそっとコウモリを放す。
「あなた、私のことずっと黙っててくれたでしょ。ケチでオッサンだけど、…じゃないわ」
風がふわりとブラムを運ぶ。
(ねえ、今、聞こえなかったんだけど…)
キャシーは振り向かずに街の中へと消えて行った。
(…まあ、しょうがない。家に戻ろう。エクレと出発の準備を進めなければ…)
セーフハウスにはゼンエモンも待っている。学問都市で、ゼンエモンの教え子たちに渡りをつけてくれる手はずになっていた。当然ブラムも同行するはず、であった。




