カウントダウン2
約束の日まで残り2日。
(エクレの度胸には正直驚いたが、大人が守れなくてどうするんだ。しっかりしろ、俺)
緊張のあまりこの所昼間もろくに眠れていなかったブラムは、完全に思考の迷路を彷徨っていた。
(情報が足りない。交渉材料にするための、糸口になる情報が…)
フラフラと街なかを歩く。酒臭い男たちがぶつかってきて跳ね飛ばされても、全く気づかないほどに弱っていた。最初こそ男たちはイチャモンをつけようと声を荒らげたが、次第に相手の様子がおかしいことに気づき、気味悪がって去っていった。
(…そういえば、この前火葬されかけた時に【世界図書館】のアクセス権限がどうたらって言ってたな。入り口も分からないのに…どうやって入れと…)
立ち上がり、無意識に足はギルド庁舎に向っていた。いつもの商人ギルドでもなく、冒険者ギルドでもなく…
「あら、はじめまして、かしら」
たまねぎ頭の背の低い老婦人の声で我に返る。
「いや、商人ギルドと冒険者ギルドの会員のブラムだ。何度かお目にかかっているとは思うのだが」
「ごめんなさいね。私たちは複数人で1人なの。何かお困りかしら」
職人ギルドの受付嬢、オニオン婦人がのんびりと語りかける。そう言えばいつも眠そうにしており、喋る姿はあまり見たことがない。
「正直、どこに聞けば良いのか分からなくてな、世界図書館という物を探している」
「あらあら。ではこちらにどうぞ」
婦人の後について行く。カウンターの内側の奥まった所には稼働していない魔法陣。
(座標指定の場所が…消えている?)
「お乗りになって」
言われるがままに魔法陣に乗る。頭の中で音声が響く。
【アクセスキー認証。座標データダウンロード。コマンドを実行します】
(な、なんだ…これは)
座標指定構文が滲み出し、魔法陣が淡い光を放つ。
飛ばされた場所は我が目を疑う物であった。
無数の本棚は縦にも横にも広く、どれも巨木のうろに埋没しているように見える。
巨木の本棚にはそこかしこに魔法の灯火を宿したランタンが配置され、至る所にハンモックが用意されている。
天井はガラス張りになっており、温室を思わせる。
そんな中を、複数人のオニオン婦人達がせっせせっせと動き回り、本が鳥のようにバサバサと飛び交う。ハンモックで本を読んでいる者はペンで何やら書き足している。校閲係だろうか。
空中に突如出現した魔法陣から紙が降ってきては、自ら同じ位置に着地し積み上がっていく。
(紙も本も…全部生きてるのか?夢でも見ているのか、俺は…)
あまりの光景に立ち尽くしていると、足元にはズボンを軽く引っ張られる感覚。
見ればいくつかの本が足元に転がっては、駄々っ子のようにモゾモゾと動いている。
(読んでくれってことなのか?これは)
それらの本を拾い上げると、今度は腰の高さまでハンモックが降りてくる。ハンモックの両脇を支えるのは木の枝で、ご丁寧にランタンまでついている。
(ここで読んでいては時間を忘れそうだな。貸し出しは…流石に無理か…)
と考えていると、本の後ろ表紙に転移陣が浮かび上がった。
(期限は…2週間、ないし読み終わるまで?時限式の転移陣だと!?出鱈目すぎて頭が痛くなってきた…)
目をこすり、再び目を開く頃には、それらの光景が全て消え去り、元のギルド庁舎に戻っていた。




