カウントダウン1
ベルナルディとの会談の翌日、施設内の食堂。
「ほんで?わいらのかわいいエクレちゃんを半裸の王様に取られそうやって?ホンマ、アッホやな。いてこましたれ」
「師匠、無茶言わないでくださいって。相手は友好国の要人です。外交問題になりますって」
ブラムたちの住む国とフラクタル王国とは、王政同士、魔法技術が盛んな国同士ということもあり、数十年にも渡り友誼を結んでいる。殊、レイザンと国境を接する隣国との関係がきな臭い昨今に於いて、両国の友好関係はこの国の生命線とも言えた。
(俺みたいな世捨て人からすれば、お隣同士仲良くしろよって正直思うが…)
「我が故郷も、政府の失策が原因で周辺国から土地を奪われ、そろそろ亡国と化しつつあるのでな。他人事とは思えん」
いつもの職員や利用者に混じってゼンエモンも話し合いに参加している。このところ冒険者ギルドの教育機関発足に伴い、未来の冒険者候補として施設の子どもたちの世話を買って出ている。
「ゼン、それホンマか?」
「ああ。ユキ殿の里も、北の大国の富豪に買われ再開発され、随分になると聞く。山木は腐り果て、開発された街も今や無人の廃虚と化している、とな」
「おじちゃん…」
ブラムの膝に載ったエクレが潤んだ瞳で見上げる。
「流石にエクレちゃん1人渡さんで、そんなことには…」
「なりかねん。ブラム殿は見えていたようだ、あの王の奇っ怪さが」
「はい。何も見えないし匂わない。完全なる認識阻害と恐ろしい鑑定能力でした。恐らく、私の手の内も全部読まれていると考えていいでしょう」
「うむ。拙者も同意見ぞ」
「待って」
手を挙げたのはトーマス。
「国と国同士の話ってわけじゃないの?」
「うむ。これはあくまで国王個人の交渉。こちらの国からしてみれば、孤児1人消えたところで何も関係がないが、先方がどう出るかは…な」
「宰相殿は外交面をかなり気にしていました。いざという時は守ってくださると、言質も取っております」
「言質…だけか?」
重い空気が場を支配する。この面子の中で、外の情勢に関心がある者がゼンエモンのみというのは心許ない。
(くそ、完全に手詰まりか。情報がなさすぎる…!)
「おじちゃんたち、これエクレのこと。エクレが決めていい?」
一斉にエクレに視線が集まる。
「いやあかんて。…と言いたいところやけど、一利あるで」
一つ頷く。膝の上から幼い体温が小さな揺れと共に伝わる。
「わたし、会ってみる。おじちゃんだけじゃなくて、モジャおくんも、ゼンじいちゃんもおばあちゃんも、みんな一緒だったら、きっとこわくない」
一同は互いの目を見合わせる。
「わたしがね、ちゃんとおねがいしたら、聞いてくれると思うの。でも、聞いてくれなかった時は…」
「よっしゃ、決まりやな」
ユキが立ち上がる。その瞳には、ブラムが師と仰いでいた頃の輝きが戻っていた。
「カチコミや。勿論、穏便に。な!」




