永久の苗木3
更に時は少し遡り―。
「ほい、完全修復完了っと。みんな、ご苦労だったな」
とある日の夕刻、外壁の外側には職人ギルドのギルドマスター、グレゴリーが率いる職人の一団が集まっていた。
主に大工と魔道具職人、土属性魔法を使う大工補助要員達は、先日の魔物の襲撃を受け、本格的な外壁改修工事を急ピッチで進めることになった。
(しかし応急処置が完璧だった。見事すぎる。古代魔法にそれなりに長けた、魔力の内包量の多い者…)
ノムは改めて自分たちの仕事の出来栄えを眺める。レリーフは更に強固な素材に変え、魔法陣も張り直した。
(冒険者…と言っていた。1人しか思い浮かばない。こんなに器用なら助手にスカウトするのもいい。無加護という点もいい)
「ところで、今回の襲撃の際、魔断石が意図的に嵌め込まれていたと聞いている。おぬしら職人が一番魔断石に詳しい」
ゴードンが一堂を鋭い眼光で眺める。誰も彼も何も事情を知らない表情を浮かべている。
「…と、他のギルドからいの一番に疑われてしまったんだが、今の反応であれば問題なかろう。わしから、他のギルドの奴らにはガツンと言っておくわい」
カンラカンラと笑うゴードン。
(クソドワーフ…冗談にも程がある)
誰よりも背が小さく、誰よりも童顔であり、職人界隈では数少ない女性であるが故、ノムはわざと妙な言葉遣いと、見た目に沿った振舞で擬態していた。
結果誰も寄り付かなくなったが、その分雑音が減り、研究に没頭できるという点では成功であった。そして今では、純粋に成果物を評価されるまでになった。
(カナデが居たから、今ここに立っていられる)
にこやかに他の職人と談笑する自分を、どこか乖離した目で見つめている。
(カナデ、ちゃんとご飯食べてるかな。ちゃんと帰れたかな)
魔物の襲撃のどさくさの中で見送りもろくにできず、その後も修復作業や防御機構の見直し等、目まぐるしく日々を過ごしていた。
「しかしギルマスよ、街の外壁ってえのはお国の管轄じゃねえんですか」
酒ヤケでしわがれた声。彼はノムの顔を見るなり開口一番に【パワードふんどし】を褒めちぎった大工の親方である。
「確かにな。急ピッチで進めてもらったのも他でもない、外交上の要人が近日中に来訪するという情報からだ。だが、民の命を守る機構という面では、ギルドが断る理由は見つからなんだ。国から少なくない補助も出ている。報酬には結構色がつくぞい」
親方は不承不承頷く。それをにこやかになだめる若手大工たち。
「いいじゃんすか親方。今夜はパーっと行きましょうよ、パーっと」
「うむ、お前らがいいなら別に構わん」
「ゴメズ、おぬしの思うところもわからんでもない。他の者も、不満があるなら今のうちに吐き出しとけよ。わしはレアキャラ…だからの」
ウインクするドワーフに和む職人たち。
「では、ないようなのでこれで解散なんだが、その要人が来る際に古代魔術に関するチン…シンポジウムを開くと聞いている。特に魔道具職人の諸君なら興味が尽きないだろう。行ってみるといい」
(古代魔術…王都の向こう側のフラクタル王国か。王は代々古代魔術に精通しているというが、祭祀に専念するために外交の場には殆ど姿を見せないと聞く。王が来るなら行きたいが、ああいう場は社交場も兼ねているからな…カナデが居ればな…)
慌てて頭を振る。
(無いものねだりはいけない。その時になったら考えよう)




