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子連れ狼

棺桶が燃えている。

火の粉の中、手向けられた白いユリの花だけがやけにくっきりと見える。

男はただそれを黙って見守るしかなかった。

腕の中には生後1年にも満たない赤子。ずっしりと重みがのしかかる。

(この子は…母親の顔をちゃんと思い出せるだろうか…)

そっと肩に手が置かれる。ゴツゴツとした大きな手から温もりが伝わる。

「セイジロウ…いや、セキト、行く当てはあるのか」

「いいえ」

子を抱えたまま守衛の仕事を続けるのは正直不可能であった。

妻は原因不明の突然死であった。

守衛の仕事から戻ってきた時は既に冷たくなっていた。

「俺が働きに出ていたばっかりに…」

「過ぎてしまったことは仕方あるまい。おぬしも赤子もベル殿も、おぬしが働いて金を稼がねば死んでしまう。新しい職場を見つけるのも、今のおぬしでは難儀するであろう」

「でもベルは…‼」

「落ち着け。…知り合いに孤児院の伝手がある。そこに…」

「アンナまで手放せって言うんですか、師匠!」

「最後まで聞け、セキト。孤児院の知り合いに仕事の合間だけ見てもらえるよう話をつけておいた。それならよかろう」

「師匠…‼俺が浅はかでした。まさか、そこまで…」

「拙者には細君も子もおらなんだが、そうして泣く泣く冒険者を辞めた者、路頭に迷う者、子を手放す者も数え切れぬほど見てきた。左様にならずに済む手だてがあるのならやるまでよ。して…」

ゼンエモンの目元から好々爺の笑みが消える。

「下手人の目星はついておるのか?」

「ミランダがダメ元で回復魔法を施した時、心臓に妙な引っかかりがあると…。彼女が開胸して取り出した物がこちらです」

それはリング状の金属片で、伸縮できるように遊びがある。

「ミランダには一番辛いところを頼んでしまい、情けなく…」

「いや、流石ミランダ殿だ。後で礼を言わねばならんな」

老剣士の瞳に危険な光が宿る。白目が黒く濁り肌に紋様が浮かぶ。

「師匠‼それはブラウンの…‼」

「相手は実の娘をモノとしてしか見ぬ化け物ぞ。我々が人であることを捨てる理由など、それで充分だろうて。だが、今の感情で動くおぬしには使えぬ技よ。期を見極め、牙を研ぎ続けよ」

風が火の粉とともにユリの花びらを散らす。燃えて縮んだそれを静かに見つめる。

「さてと、早速挨拶に行かねばな。拙者の旧き【友】に…な」

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