氷樹の王7
先日獲得したばかりの二つ名が、あっという間に冒険者の間に広がっていった。
セイキは約束通り、ブラムの吸血シーンは一切見ず、その後の氷漬けの子犬たちのみを目撃していた為、結果的に二つ名だけが先走りすることとなった。
魔素中毒になりかけた数名の冒険者も予後は順調で、今も元気にクエストを熟している。
「ふっふっふー、ようやく我が家の修理が終わったぞー‼」
「よかったねー、おじちゃん」
ここ数日家を空けていた間に、あまり気付かなかった部分まで修繕してくれたらしく、雨漏りのひとつもしなくなっていた。
二段ベッドは必要か分からなかったので修繕はしないが、もし家具を買う時には大負けに負けるぞ、とギルドに伝言を残し、大工たちは家路へついていったようだ。
修理したばかりの家に、エクレとトーマスを招待する。トーマスはあくまでエクレの運搬係だが。
「ん?今日はカボチャパンツじゃないんだな」
エクレは緑色の肌を隠すことはしない。
「えへへー、モジャおくんとおじちゃんの前だからねー」
(トーマス、お前モジャおくんって呼ばれてるのか)
「…いいなー。俺もあだ名欲しい…」
「ブラム、気持ちと言ってることが逆になってるよう」
「‼しまった…」
三人の無邪気な笑い声が大森林に響く。
「魔素を魔力に還元する機構…です?」
ノムは研究用の蔵書を眺めるも、心当たりがないとでも言うように頭を振った。
ブラムはエクレの件が終わってからも時々ノムの所に顔を出しては魔法談義をするようになっていた。カナデが居ない工房は心なしか広く感じる。
「虫でそういう生態がある物もいたとは聞いたような、聞いたことがないような…です」
「虫?」
脳裏に浮かぶのはまだ孤児院に来たばかりの頃の記憶。
当時ユキは「働かざる者食うべからず!魔法は数練習して敵を倒してなんぼ!」と言う口癖と共に、夜の畑にブラムを連れ出しては虫相手に氷作成魔法を練習させていた。
畑の虫は夜にかけて活発に蠢き、作物の根をちょん切ったり蕾の養分を吸うなどする。
ブラムは他の子どもたちと異なり、昼の農作業を手伝うことができなかった分、随分と虫相手に格闘させられたものであった。
特に最初の頃はコウモリ型からなかなか人間の姿に戻れず…。
「食べさせられたな、大量に」
(コウモリの主食は虫じゃろがい!という謎理論と共に…)
「げっ。いや、一利あるかも…です?いやいや、食べたものが体に影響するなら、私も今頃砂肝ができててもおかしくないです。第一、食べた虫にその機構が存在したかも今となっては…」
(確かに、鳥肉を幸せそうに食べていたな。食べられた鳥肉が喜んで昇天するほどに、いい食べっぷりだった…)
「とにかく、これについてはまた色々考察と検証です。長年生きてるですが、あなたと居ると飽きないです」
一瞬頬を赤らめたのは気のせいだったのか。
「もちろん、研究的な意味で」
「研究的な意味で」
我が世の春は遠い灯火の如きと痛感した、ブラムなのであった。




