氷樹の王6
レイザンと隣国の国境までは平原が広がっている。月明かりのみの暗夜の中で魔素溜まりを見つけるのは常人では土台無理な話であるが、レンジャーであるセイキと、非公表吸血鬼であるブラムにとっては造作もないことであった。
「流石ブラムさん、あの青髪吸血鬼を倒しただけのことはありますね」
人の良さそうな笑みを浮かべながらも、射抜くような眼光で目の前の靄を見つめるセイキ。靄の中からはポコポコと小型犬達が湧き出てくる。プリプリと尻尾を振る真っ黒な子犬は人間に気付かない間はただの愛くるしい子犬そのものだ。
(やたら俺に絡んでくるな…初対面なのに…はっ‼)
思い出してしまった。いや、もっと早く思い出すべきだった。
(青髪くんの調査団で、その後俺の捜索隊にも居たって言う…あの…)
【曲業師】セイキ。レイザン冒険者ギルドでもトップクラスの索敵能力を持つレンジャーであり、二つ名の通りトリッキーな攻撃をすることで知られている。
「そ…その節は迷惑をかけた…な」
「?ああ、あの時のことですか。言われるまで忘れてましたよ」
(うう、爽やかでスマート。俺にも分けてほしい…)
「確かに悔しかったですよ。商人の方が我々プロでも手をこまねく相手を倒してしまったのですから。でも、こうして同業者になった今ならこれほど心強い味方も居ませんよ」
矢を番え、引き絞る。矢の先端に集まった光は手を離した瞬間、6本の矢となり拡散する。
(ホーミング弾?しかも散弾…だと?えげつな…)
「回復術師の皆さんは遠方から光属性攻撃で少しずつ削ってください。前衛は術師の皆様の盾に…」
「へっ、しゃらくせえ。やってやるぜ‼」
指示を聞く前に飛び出す冒険者数名。
「待ってください!近接戦闘だけは…‼」
刹那、冒険者たちは複数の子犬に噛みつかれ、傷口から大量の魔素を注入される。
「げ、グガが…ミナギってキタ…‼」
「手駒を増やしてどうするんですか!くっ…撤退!て…‼」
「ふむ、我の出番か…」
大仰にマントを翻し、ブラムは前に躍り出る。
「そんな無茶です!いくらあなたであっても…」
いつも通り空気中の水分に魔力を注入し、運動エネルギーを吸い取って凝固させる…はずだった。
(ま…魔力切れ…‼)
ブラムは失念していた。ここのところ血液を全く吸っていないことを。何より、魔力の通りづらい魔断石に分子魔法を大盤振る舞いしたのが決め手であった。
(急激に使えばブラックアウトするから分かりやすいんだが、小出しにするとこうなるか。今この状況を詳らかに見えるのは…)
「セイキ殿!今から起こることは他言無用で頼む‼」
「…‼?分かりました。皆を連れて撤退します‼何も見ません‼」
(イイ男が過ぎる。見ろよ、俺のセイキを…)
ブラムは魔素中毒者の傷口に照準を絞ると、一気に血液を吸い上げた。黒い血の線が一斉にブラムの口へと吸い込まれる。
(死なない程度に…魔素を全て吸い取るように…)
魔素中毒者の血を吸うことで魔力がいっぺんに体を駆け巡るのを感じる。
(魔素が濃い所に魔石が出来る。魔石は魔力の塊。つまり魔素こそ魔力の源、という仮説が実証されたな。でもおかしいな、なんで他の人だと中毒になって、俺だと魔力に変換されるんだ?)
血の線に赤みが帯びる。
(検証は次の機会だな)
魔素が急激に薄くなる。黒い子犬たちは「クーンクーン」と鼻を鳴らしブルブルと身を寄せ合っている。
「すまんな。俺はかわいい犬が大っっっ嫌いでね」
今度こそ空気中の水分子に働きかける。ピキピキと音を立て、空間を全て凍らせるほどに―。




