氷樹の王3
泥酔からの棺桶炎上事件の翌夕。
ブラムが目覚めると真新しい白木の棺桶が横に鎮座していた。縁の部分は角を少し削っており、手触りは滑らかだ。底にクッション材などを敷けばいつでも寝られそうだ。
(いい仕事するな〜…。これはサービス…か?もらっていいのかな?)
食堂では大工たちが狸寝入りをしている。昨日の今日でバツが悪いと思ったのだろう。
そっと親方の枕元に硬貨の入った革袋を置いておく。
(さすがにタダじゃ申し訳ないな。驚かせちゃったし。お収めください)
ブラムは早々に家を後にする。今日はノムと約束していた経過観察の初日だ。
経過観察は数日に及ぶため、しばらく施設の仮眠室を間借りすることになった。エクレを夕方一番に店に送ることを考えれば移動時間が惜しい。しばらく納品できない旨をギルドに伝えているので、恐らく識字率の低い大工連中にも伝わるであろうと考えた。
(それにしても、【カボチャパンツ】と言っていたか。あれは確かにフォルムが素晴らしい)
流石に下着姿をブラムやランクスが見るわけにもいかないため、女性陣のほっこり顔から非常に愛らしかったと察する他なかった。
観察はエクレが就寝している間も行われる。
未知の亜人種…しかも髪色からかなりの魔力量を内包していると予想される…の無意識下での魔法制御について、ノムが興味津々だったというのが理由として大きいが、エクレ本人には今後お泊りなどした時でもちゃんと効果があるかを見るため、と伝えている。
「これは…確かにすごいな…です」
エクレの周囲には床だろうがベッドだろうがお構い無しに、小さな花がポコポコと咲いている。その光景に思わず「です」を忘れかけてしまうノム。
「しかも不思議なことに、消えた後は根すら残らない。一体どういう原理なのか、施設の者たちも皆目見当がつかないらしい」
「うーん…カナデが起きてる間は出てこないのに今になって出てくる…加護もないのに…精霊のいたずらです?」
「女史と精霊に何の関係があるのだ」
「カナデは精霊が見えるです。魔法を発動した時が一番見えるようですが…」
「ふむ、不思議な人間も居るのだな」
ふと、白い空間で見た【観測者】という言葉が引っかかる。
(二つ名は自分から言ってはいけないって言うけど、隠しステータスも…隠しって付くぐらいだから言っちゃだめなんだろうな…)
その後もノムの考察は延々と続くが、どれも確証を得ないまま終わった。ただ、本人は心置きなく未知への探求心を発散できる相手が見つかりホクホク顔である。
「ところでノムよ。あのランクスとやら、何故ここに置いている」
「カナデが無理矢理ギルドマスターから押し付けられたようです」
「商人ギルドのマスターか…」
初対面での偵察魔法、気配察知がほぼきかない体、何より無臭であることがブラムには引っかかっていた。
「下手に波風立てないほうが無難、と判断したです。安心するですよ、既に盗撮盗聴に関するレジストは施してあるです。さぁ、今日も大いに語るですよ」
こうしてとっぷりと、春の夜は更けていくのであった。




