氷樹の王2
エルフの工房主によると、【パワードふんどし】の亜種である【変色パンツ(仮)】の試作品ができるまで数日かかるとのことで、経過観察開始まではいつも通り過ごすことになった。
食堂に、元々寝室にあったマットレスを敷き詰め、大工たちが気持ちよさそうにいびきをかいている。損傷が大きかった天井と床板は概ね完了し、春の長雨シーズンに間に合ったと大工たちがにこやかに報告していた。
そんなある日の就寝前、報告タイムでのこと。
「確かにここまでの遠方は初めてだが、資材の運搬は楽させてもらってるし、家に泊めさせてもらってるしな…。いや、こっちが出した条件だからアレだけどよ?まさか施工主が転移魔法陣を使えるとはな」
「しかも施工主が木材の用意までやってくれるとか、ちょっと予想外だったしな。いや、あれが一番助かるのよ」
「最近冒険者になったのでな、切った木材はただの練習相手だ。気にするな」
「冒険者か、その歳ですげえなあ」
屈強な大工たちからバンバンと背中を叩かれ、あれよあれよと言う間にグラスを持たされ酒を注がれていく。
(陽キャ軍団怖いよう。っていうか食料と一緒に酒まで持ってきてたのか。しかし…)
ブラムは生まれてこの方酒を飲んだことがない。
(注がれたら飲まなきゃいけないんだっけ?えーい、ままよ!)
ぐっと盃を飲み干す。強烈な酒精の香りにむせる。
「おいおいブラムさんよう!それはそんな風に飲む酒じゃあ…」
「すまん…酒を飲んだことが…ない…‼」
「ぷっ、ふはははは‼ここの施工主は面白すぎか‼おい!水持ってこい‼」
頭がグラグラする。体が妙に熱い。慌てて差し出された水を飲むも、体の熱は引きそうにない。
「ちょっと…寝床に…」
「おう、地下か。お前、ちょっと肩かしてやってくれい」
「はい!」
視界が完全に歪み、ブラックアウト寸前の所で若い大工がそっと支える。
「軽っ!親方の介抱より楽かも…」
「おい、お前なんか言ったか?」
耳元で大声を出されても遠くに聞こえる。
(ああ…これ…死んだわ…。トーマス、ユキさん…エクレを…頼みま…)
目覚めるとそこは白い空間であった。
(やっぱ死んだか…。まあ、少し長く生きすぎた感は否めないし、最後の最後に酒を飲めたから、悪い人生ではなかったな…)
【条件をクリア。設定を解放します。
二つ名【氷樹の王】を獲得。
隠しステータス【観測者】を追加。
【世界図書館】へのアクセス権限付与。
加護【なし】から【■■■■】に変更。
設定を完了する場合は【OK】を押してください】
目の前に突如現れた文字。
(‼…これが世界の言葉、というやつか?こんな風に二つ名って決められるんだな。一旦死にかけないといけないとか、条件があるのかな)
【設定を完了する場合は【OK】を押してください】
(えっと…聞こえてるっぽいから言うけど、この…よく分からない文字があると押すに押せないんだけど…)
【設定を完了する場合は【OK】を押してください】
(うう…分かったよ。OK‼)
視界が開ける。いつもの見慣れた棺桶の蓋。腰のあたりが妙に温かい。というか熱い。
「うわああああ‼」
慌てて棺桶から飛び出すと棺桶が燃やされている。周囲には驚き飛び退く大工たち。
「「「えええええ‼?」」」
「行きてんじゃねえかバカタレ‼誰が死んだっつったんだよ‼」
「親方ですよ‼息してねえってんですぐ死んだ‼って…」
「馬っ鹿っ野っ郎っ!俺のせいにすんな…って、俺だああああ‼」
火傷はとうに癒えている。しかし棺桶は徐々にその原型を留めず、炭や灰へとクラスチェンジしようとしている。
「えっと…」
ブラムは周囲を見渡す。完全に股間を濡らしている者も居る。
「驚かせてすまんな。清浄魔法をかけてやる。さっさと寝るがいい」
わざと鷹揚な態度を取ると、大工たちは黙って頷いた。




