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さようなら春の日6

人の流れに流されるように大通りを離れていく。後方では炸裂音や剣戟の音が絶えず響き、魔法の光が周囲を照らす。

カナデはエクレを抱きながら走る。エクレがギュッとしがみつく。平常時ならそのぬくもりに頬を緩ませそうだが、今はそれどころではない。

ノムは避難する人たちの殿に陣取っている。

「無辜の民を守るのも強者の使命…です」

一瞬出る、いつぞやのオレンジ髪と対峙した時の口調と共に去っていった。いつもの取ってつけた「です」口調はノムなりの精一杯のキャラ付けかもしれないと詮無いことを思いながら走る。

人混みは徐々に分散され、見慣れた工房地区に着く頃には喧噪は大分薄れていた。

「…ここまで…くれば…大丈夫…かな」

エクレをそっと下ろし、地べたに座り込む。

「おねえさん、だいじょうぶ?」

そっとハチミツ飴を差し出す。

「ありがとう…売り物じゃないの?」

「おやつの分だよ。こわいハチのミツ、いつもおじちゃんがおみやげにくれるから、いっぱいあめちゃんできた」

「おじちゃん、強いの?」

「すっっっごいつよいよー。でもおばあちゃんの方がもっとつよいよ?何でもカチンコチンだよ」

「へー…意外…」

ノムと以前この飴を食べた時「万能薬の材料になる軍隊蜂の蜜で、それに群がるブラッディベアを仕留めないと手に入らない貴重な代物」と愕然としていた姿が頭を過ぎる。

足の震えも酔いも、長時間の抱っこで痛みかけていた腕もたちどころに回復する。

「元気になったよ。このまま施設まで競争しよっか」

「うん。かけっこなら負けないよ」


工房地区から施設までは程近く、大通りの騒ぎとは無縁の雰囲気すら漂っている。が、それは雰囲気だけで、辺りには魔物の氷漬けが散乱している。

(外壁には対物理結界が張り巡らされてるって聞いてたけど、それを貫通したってこと?それとも結界が弱まっている?)

「おばあちゃんただいまー」

「エクレちゃん!あんた、まーべっぴんさんに磨きがかかって、眩しいわー‼」

施設に着いて出迎えたのは背筋がピンと伸びた老女だった。

「こっわい魔物が来てもおばあちゃんがバーンとのしたるからな、はよ入り」

「はーい。おねえさん、またねー」

エクレはそそくさと施設に入っていった。

「さて…」

老女は視線をカナデに移す。

「ほんま、おおきにな。これで布おばけにならんでも外に出られるっちゅうわけやな」

「まあ、定期的なメンテナンスや交換は必要になりますが」

「あの子、ほんまええ子やから、これからも仲良くしたってな。困ったことがあったら、このユキばあちゃんに何でも言い?」

(ユキ…氷漬け…雪女…あれ?)

「あの…ゼンエモンってお侍さん、ご存知ですか?」

「ん?【悪鬼羅刹】のガキが。どないしたん?」

「この街に来てるみたいで、ユキさんのこと探してたみたいですよ」

「ふん。イキリ散らしよってからに。返り討ちにしたるわ」

危険な笑みを浮かべる老婆。パッと手を振るとカナデの横を強烈な冷気が掠め、後ろからは断末魔の叫びが聞こえる。恐る恐る振り返ると魔物の氷漬けが更に増えていた。

(ノータイム、ノールック…ノー詠唱でここまで?最強具合が有り余ってない?これ…)

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