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さようなら春の日5

昼間は店の営業と並行して表通りの2号店への搬入作業も行い、夜は客足が全くなくなった頃にふらりと現れるエクレたちの経過観察と、多忙を究めていた。

経過観察では魔法が体に及ぼす影響や、魔力量が高い者が【エルフの羽衣】を使用した場合の効果の変動など、多岐にわたる項目について詳細なレポートを書いては書類専用の転移装置で王都に飛ばすをひたすら繰り返す。

ノムとブラムによる考察タイムが延々と終わらない時は、書記を買って出たはずのカナデが先にダウンしてしまうこともしばしばあった。

「うむ、この肌色なら外に出てもおかしくないな」

「髪はこのままでも十分キレイな色だと思うです」

「これわたし!?すごーい‼」

姿見の前でエクレにも色をチェックしてもらうのも忘れない。毎回ブラムは鏡の範囲外から遠巻きに眺めている。

そうして1週間が過ぎたある日。

「カナデ‼大変です‼」

工房から大慌てで店舗に降りてきたノム。

「異空間ゲートの再稼働日が1週間後に決まったですよ‼」


レイザンから王都までは馬車で数日の道のりであった。今すぐ支度をして馬車の手配をすればまだ余裕がある。

「そうか、道理で違和感があると思ったら、異世界人だったとはな」

「黙っていてすみません、ブラムさん」

「いや、気にするな。敢えて言うことでもないだろう」

この日はカナデのお別れ会とエクレの経過観察終了の慰労も兼ねて、4人で大通りの食堂で夕飯を取ることになった。ノムは相変わらず鳥ばかり食べている。カナデにとっては異世界に飛ばされて初めての酒だった。

「異界渡りのギフトスキルがないのでは、かなり大変だったのではないか?」

「そりゃあもう、最初は追放されてホームレスでしたからね。後にも先にもあんなキツイ仕打ちなかったですよ」

「ここに来るまでは何をしていたんだ」

「そうですね。…毎日電車に乗って、会社に行って、妹たちとご飯食べて、テレビ見て、スマホ弄って…何もしてなかったですね」

「すまほ?よく分からないが、随分慌ただしい世界なんだな」

「そう言われればそうですね。時間の流れ方は、なんだかこっちの方がゆっくりだし、充実してますし…」

「気に入ってくれたのなら何よりだ」

「カナデが帰りたくないなら代わりに行くです?」

「んー…ノムさんなら普通にスマホ弄るどころかハッキングとかやってそうでこわい」

「ノムちゃんてんさい?」

「そうです、わたしが無敵の工房主です!」

酒気を帯びたノムが鳥肉片手に立ち上がった、次の瞬間だった。

「緊急招集‼緊急招集‼冒険者ギルドの皆様は直ちにギルド庁舎へお集まりください‼繰り返します…‼」

屋外から包帯騒動以来の防災無線が響く。

「お客様、どうか落ち着いて行動してください。たった今ギルドより、大通り付近にて大量の魔物が出現したと連絡がございました。裏口は大通りに面しておりませんので、速やかに避難してください」

「うむ…今日はこれでお開きだな。呼んでくれてありがとう」

ブラムはスッと立ち上がる。

「おじちゃん、おしごとがんばって」

「ああ。すぐ片付けてくる」

「ブラムさん、冒険者なんですか?」

「ああ。駆け出しだがね」

表通りの喧騒へと足を踏み入れるブラム。ノムとエクレはカナデの手を引っ張って裏口へと誘導する。

店内は混乱を究めていたが、カナデは1人呆然とブラム背中を見ていることしかできなかった。

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