さようなら春の日3
それから数日後の夜。
店舗の看板を下げようと表に出ると、見慣れない男が立っていた。男の傍らにはいつぞやの布の塊がぴったりとくっついている。
「おねえさんこんばんは!」
「こんばんは。エクレちゃん…だっけ。飴ちゃん、美味しかったよ」
「おねえさん、お名前覚えてくれたー。すごいねー、おじちゃん」
「俺の名前もいい加減覚えてくれないか…」
ポリポリと頭をかく姿に哀愁が漂う。銀髪で痩身の黒尽くめというなんとも胡散臭い姿だが、どうやら子どもには懐かれているようだ。
「すまない。この辺りでノムというエルフの魔道具職人が居ると聞いたのだが」
「うちですね」
「うむ、そうか。実は特注であるものを作っていただきたいのだが、今はご多忙かな」
「多分大丈夫だと思いますけど…中でお待ちになります?」
「ありがたい。あまり人目につきたくないのでな」
1階の店舗ゾーンに通すと、布の塊がモゾッと動いた。
布の塊の中身は幼女だった。しかし肌が緑色で髪の毛は透けるように白い。骨格こそ人間のそれだが、一歩間違えればゴブリンと間違われかねない。
「驚かせてすまんな。この子は生まれつき肌がこの色でな。魔法を付与した衣服の噂を聞いて、ここでならお知恵をお借りできると踏んだのだが…明日にしよう」
「あー、パワードふんどしのことですかね。ちょっとお待ちいただいても?」
男は【ふんどし】の語感が気に入ったのか、小さく「ふんどし…」とつぶやいた。
「ゴホンッ…かまわん。こちらから押しかけたようなもんだからな」
「これは‼」
ノムは耳をピコピコさせながら少女の全身を隈無く観察する。
「長いこと生きてるですが、初めて見る種族です‼」
「やはりそうか。木を自由自在に操る能力も持ち合わせているようでな」
「うぅぅん…トレントだとしたらもっと樹木樹木してるですし、森から離れて自走しているなど…」
「えくれ、やっぱり変?」
「変じゃないです。全然、変じゃないです」
ノムが相手を慮る姿はなかなか珍しい。
「肌と髪を変色させる魔道具はそこまで難しくないです。ただ、わたしも分からない種族となると経過観察が必要です」
「むしろそれも織り込み済みでお願いに来た所だ。予算は如何ほどかな」
「そうですねー…王都にレポートとして各種データを送っても良ければ是非とも無料で引き受けたいです。むしろ金一封出すです」
「金一封は流石に遠慮させていただこう。エクレは、どうかな?」
「れぽーとってなあに?」
「エクレのことをいっぱい観察して、それで日記を書いてえらい人に見てもらうんだ」
「んー…おもしろい?」
「見る人が見たら面白いだろうな」
「じゃあ、いいよー」
無邪気な少女の笑顔に、その場に居る大人たちは頬がとろけてしまう。
「いつ頃からできそうかな?」
「布の工房と協力して作るですから、ちょっと調整に時間がかかるかもです」
「そうか…。また後日伺おう」
「よろしくお願いするです」
レムは銀髪の男と固い握手を交わす。何らかのシンパシーを感じたようであった。




