さようなら春の日2
ギルド総合庁舎は昼頃が一番空いている。
朝と夕方が基本的なピークタイムのため休憩を取る職員も多く、結果待ち時間はさほど変わらないが、殺気立った冒険者や血の気の多い肉体労働者に出くわさないだけ平和と言えた。
カナデとノムは職人ギルドの会員ではあるが、2号店出店となると商人ギルドとの連携が必須となる。
工房併設店の場合は工房扱いなので職人ギルドの管轄、店舗のみの場合は商人ギルドの管轄となり、職人の斡旋は職人ギルド、店舗運営スタッフの斡旋は商人ギルドと分かれる。
また、開業できる地区も工房と店舗では異なり、売上に対しての税率や支店ごとの住民税のようなものも算出方法が異なる。
処理が複雑になるため完全に管轄を分けて国に申告をし、自営業者である会員の納税を代行するのも商人ギルドの大事な業務の一つである。
ギルドは国に依らない団体ではあるが、複雑な国の税法や制度に対応するという点では、役所というよりは士業に近いとも言える。
そんな事情をノムは知ってか知らずか、商人ギルドで店舗スタッフを斡旋しているという一点では大正解であった。
「カナデさん、丁度良い所に。ちょっと扱いに困る求職者が居まして…」
「扱いに困るだなんて、まるでうちの息子が問題児みたいじゃないか」
サーシャの隣に立っているのは包帯騒動以来のレクターであった。
「え、そんなに大きいお子さんが居るんですか?」
「その驚きは、ボクの見た目が若いって意味として受け止めておくね」
「ただの社会不適合者…」
「サーシャくん、さっきから手厳しすぎない?」
「あのですねマスター、完全に職権濫用ですから。社会勉強させたいなら他のギルドに頼んでください」
「そう言わずに。うちの子、読み書きはできるし、愛想も悪くないから接客業向きだと思うんだ。お、丁度来た。ランクスこっちだよ」
ギルドマスターの視線を追うと青年が軽く会釈をしながら近づいてきた。黒みが強い銀髪は少し青みがかっている。レクターは茶系の髪なので一見似ていないようにも見える。父母の加護属性が子どもに遺伝するわけではない、とノムが言っていたのを思い出していた。
「うちの息子のランクス。普段は学問都市で学生をしているよ」
「こんにちは」
瞳は深海を思わせるような深い青。人形のように整った顔立ち。
「はじめまして。うち、魔道具工房なんだけど、興味はありますか?」
「ええ、父が魔道具好きなので、多少は…」
サーシャのレクターに対する視線が厳しい。
(魔道具がらみで何かやらかしてそうね、これは。でも予め知識がありそう。ノムさんと話も合うかな)
「決まりだね。カナデさん、必要な手続きはこちらで進めておくから、早速明日から息子をお願いするよ」




