さようなら春の日1
「人手が足りないのです」
唐突なノムの一言。
拘置所に入れられたものの使った魔法が幻術魔法、かつ使った相手が相当評判の悪い人物だったこともあり、情状酌量の余地大いにありで釈放されてから数ヶ月。
ノムは拘置所生活で溜まったストレスを発散するかのように月々と発明品を世に送り出していた。
特に、試作品から改良に改良を重ねたイヤホン型翻訳装置は、正確な言葉のニュアンスが求められる他国の商人たちから注文が殺到した。そうしてノムの存在が知れ渡ると同時に、他の魔道具も飛ぶように売れ始めた。
ある日偶然ギルドで再会したゼンエモンは、
「まあ、風は気紛れだからな」
と笑って誤魔化していたが、恐らく口コミの発生源と見て間違いない。それほどゼンエモンの市井での人気は凄まじいとも言える。
工房だけでは客を捌ききれず、表通りに店舗を構える計画まで持ち上がるまでになった。
「今まで通り、工房でカナデとわたしの二人体制で作るのは同じですが、店舗スタッフが必要です。商人ギルドに行けば斡旋してもらえるかもですが…」
ちらりと上目遣い。
(あ、これ完全に交渉丸投げパターンだ)
王都のイケメンエルフの【研究以外はからっきし】という言葉が脳裏にこだまする。
ただ、こうして無加護でも差別されることなく過ごせるのも、雑務を丸投げされ続けた結果世情に詳しくなったのも、全てノムの行動や功績によるものなので、前向きに受け止めることとする。
工房から花街を迂回して大通りに出ると、青空市が見える。心なしか、売り子も徐々に亜人種も増えているように思える。中にはノムたちが作った翻訳機を使っている売り子も居て、思わずニンマリしてしまう。
(誰かが使ってくれるのを見るの、一番グッとくるよね)
「おねえさん、あめちゃんいかが?」
ふと、幼い声に呼びかけられる。一見すると布の塊が蠢いているようにしか見えないほどに、素肌を全く見せていない。
「孤児院で作っているハーブを混ぜ込んだキャンディです。こっちは喉に良くて…」
「こっちはちょっとげんきになる」
「森で採れる蜂蜜を使っています。ちょっとクセはありますが、こちらも喉にいいんですよ」
もう1人の売り子はシスター服のようなものを着ているので、孤児院の職員だろう。
「じゃあ、これとこれと…こっちのお茶っ葉もください」
「ありがとうございます。このハーブ、実はこの子が畑で育ててるんです」
「えくれ、がんばった!」
布の塊がぴょこぴょこ跳ねている。
(布‼かわいい!尊い!)
課金したくなる気持ちを堪える。
「ちょっと聞きたいんですけど、孤児院の子たちの就労先とか、どうされてるんですか?」
「?ギルドに一括してお願いしてますけど…よっぽど人手にお困りなんですね」
「はい…お恥ずかしながら」
「うちも人手不足で、お気持ちはなんとなくお察しします。この国では雇用主と見せかけた人身売買が横行した時期がありまして、以降、各ギルドが仲介に入るようになったのです」
(やっぱりあるんだ、人身売買)
「もっとも、うちの子たちに手を出したら…」
シスター服の裾から何やら重い金属が落ちる音がする。どこに入っていたか分からないような戦斧がちらりと顔を出す。
「わたしの相棒、【ブラッディトマホーク】が黙っては居ませんけど…ね」
(なにこの孤児院、めっちゃこわい!でも、そうだよな…)
街で横暴な態度を取る召喚勇者の姿を思い起こす。オレンジ髪以外にもカナデと共に召喚された者は他にも居た。
(最近見ないけど、案外刀の露と消えにけり、だったりして…くわばらくわばら)




