吸血鬼の里1
冷や汗が背中を伝う。対峙する男からの気配は尋常ではなかった。
(これがユキさんが言うところの【修羅】ってヤツなのか…なんか最近ツイてないな…)
家が半壊しゴブリンの姫(?)を施設に預けたブラムにはとにかく金が必要であった。
魔物は見敵必殺、サーチアンドデストロイと言った具合で片っ端から狩っては売払い、得た金銭を施設に寄付したり、商人ギルドに家の修繕ができる職人を斡旋してもらい、修繕費と仲介料としてギルドに少しずつ支払いをしている最中であった。
この日もいつも通り、獲物をギルドに運ぶ最中であった。
魔物の血液を大量に飲んだのがいけなかったのか、「魔物の臭いがする」と突然刃を目の前に突きつけられたのである。
(この街の人間、血気盛んすぎて怖い。しかもこの人、どうやって俺を見てるんだ?眼球が…なんか…)
妖しい光を放つ双眸は灰色がかり、瞳孔もあるように見受けられない。
「ふぬん。魔物の分際で拙者を憐れむとは、つくづく面妖よ。風の音、体温、匂いがある限り、拙者に死角はござらぬよ。…そこだ」
自分語り中に跳躍して後ろに回り込もうとするもあっさり見切られる。身を捩って躱すも脇腹を剣先が掠める。
「…‼」
「軽業師のようにちょこまかと!」
傷は浅いが治している暇がないほどの苛烈な剣さばきがブラムに襲いかかる。
(もう剣を巻き込んでもいいし、亜人ってバレてもいいから、霧化使っちゃおうかな…)
と思い始めたその時だった。
「おやめください!刀聖様‼その方はただの商人です‼」
凛とした声が往来の野次馬の中から聞こえる。軽鎧に身を包んだ者に混じって、冒険者ギルド職員の制服姿の小柄な女性が現れる。
「失礼!お初にお目にかかります。私は【業炎の】アマリリスと申します。刀聖様のお噂は常々」
「業炎の!ということは…」
「私のような一介の冒険者をご存じとは、光栄です、刀聖様。彼は商人ギルドのれっきとした商人でございます。どうか刀をお収めください」
制服の右袖が揺れている。刀聖と呼ばれた男は素直に刀を鞘に収める。鍔もない、仕込み杖と呼ばれるものであろう。
「業炎が噂通りであれば、四角四面、真面目一辺倒、歩くウソ発見器…本当にただの商人ということか…」
「待ってください刀聖様、微妙に不名誉なニュアンスが混じっている気がしますが…」
「すまなんだ‼商人殿‼」
土下座をする刀聖。微妙にブラムの方を向いていないのは実際に見えていないからなのか、先程までの闘気は微塵も感じない、それはそれは見事な土下座であった。
((うわー…人の話を聞かない系の人かー…))
アマリリスとブラムは同時に同じ感想を覚える。ふっと目が合う。
「商人さん、ご存知かと思われますがこのお方は全冒険者ギルドにとっての切り札です。このことは穏便に…」
「構わん。こちらは全くの無傷なのでな」
「刀聖の太刀筋を全て躱す…もしかしてブラム様ですか?」
「ああ、そうだが」
アマリリスも土下座を始める。
「この節は!誠に!申し訳ございませんでした‼」
「市井のものに刀を抜くなど武士失格!いっそこの腹掻っ捌いて見せようぞ!」
ダブル土下座。しかも一方は物騒な事を言い放ってる。
(もう…勘弁してください…)
野次馬からの視線に堪えながら、胃の痛さを感じるブラムであった。




