吸血鬼の夜は遅い3
「な…何なんですか、今の」
「すげえよベル‼やっぱお前すげえ‼」
「い、いや、ぼくは、魔力切れで…」
「極大魔法ってやつだろ?さすが未来の宮廷魔道士!」
「だから…魔力切れで…」
魔力を使い果たし顔面まで真っ青に染め上げているベルと、興奮冷めやらない少年。
あばら家からはフゴフゴと聞こえるばかりで再戦しようとする気配はない。
オークは臆病な性格の個体も多く、その殆どは森の奥地でひっそり集落を構えて生活している。幾度となく吸血鬼が手痛い攻撃を受けたのも、元はと言えば吸血鬼が襲った所以なのである。
「…何をやってるんだ俺は。自分から食料難を招くなど…」
吸血鬼は青ざめた。助けなければ良かった。多分、明日からオークたちは家から出てこないし、見張りもつけなくなるだろう。
せめて少年たちから血を拝借しようとも思ったが、どちらも痩せぎすで1滴吸ったら事切れそうだ。
セーフハウスに彼らが辿り着けるかは気になる所であったが、そもそもこんな夜更けに彷徨いてる不良達だと割り切って、早々に家に帰ることにした。
それは今日の掃除を早々に済ませて眠りに就こうと棺桶に入った瞬間だった。
「お邪魔します…」
「やっと着いた…。俺ら以外居なさそうだなっと」
階上の入り口近辺でつい先ほど聞いたばかりの少年たちの声がする。疲労の色は先程より濃い。
後に吸血鬼は知ることになるが、大森林のセーフハウスは、実は彼の根城であった。
元々孤児院だったこの石造りの家には何重もの光妖精の加護魔法が結界として張られており、吸血鬼自身も魔物避けのために時々魔力を充填していた。
その為、昼でも暗い大森林の中でも常に仄かに発光しており、雨風も凌げることから冒険者の中では代々セーフハウスとして語り継がれていたのだった。
しかし、よっぽど遭難者が出たとか、希少な薬草や魔物素材が大量に必要になったなど、緊急事態以外で森に立ち入る者は居なかったので、数年に一度しか使われなかったのである。
その数年に一度ですら、夜行性で昼は棺桶に引きこもっている家主にとっては利用者に遭遇する機会が皆無だったのだが。
「年代物の魔導コンロですね。魔力を通せば使えるでしょうか」
「うおお、2段ベッドだ!いっぱいある!俺上の方で寝る」
「セキトさん、寝相悪いんですから下の方が…」
「うるせぇ。お日様の匂いがす…」
音が止む。騒々しいのは苦手だが急に静かになられても寝覚めが悪い。寝るのを諦めてのっそりと様子を見に行く。
爆睡だった。規則正しい寝息だけが寝室に響く。
まだここが孤児院で、一緒に育った仲間たちがここで静かな寝息を立てる中、1人畑の害虫と戦っていた頃のことを思い出す。
「元気かな、みんな。なんて、言えた義理じゃないか。俺、引きこもりだしな」




