サムライ·イン·ザ·ダーク4
「…カナデ、どこまで人誑しなのです?」
夜。とある大衆食堂。
ここ数ヶ月、ほぼ引きこもっていたノムの気分転換になればと、カナデから外食を提案した。
ノムに任せてしまうと鳥だらけになってしまうので、敢えて豚のような生き物の料理を頼む。
普段食べたことのない料理に頬を緩ませるノム。小動物の食事シーンを眺める気持ちで居た矢先だった。
「えっと…要するにとんでもない人ってこと?」
「です。」
「都市伝説的な?」
「都市伝説というものは分からないですが、伝説であることに違いはないです。数十人規模の盗賊団を1人で掃討したとか、名前を何キロも離れた場所から助けを呼ばれても瞬時に駆けつけるとか言われてるです」
(後半は完全に都市伝説だわ)
「かつての二つ名は【悪鬼羅刹】。現在は【疾風の刀聖】と呼ばれてるです。ちびっ子たちに大人気の冒険者です」
「ノムも好きなの?」
「冒険者には全く興味ないです。興味がない層でも二つ名が知れ渡っているほどの有名人、ということです」
カナデは母親が動画配信で見ていた映画を薄ぼんやりと思い出していた。全盲の男が悪漢をバッタバッタと斬り伏せる映画で、最後の下駄でのタップダンスが一世を風靡していたと母親がよく話していた。
「ちなみに二つ名を他人が言うのは良いですが、自分で名乗るのはご法度と言われているです。【世界の言葉】によって決められ人に呼ばれるようになって、改めて二つ名が定着するのです。【勇者】と自分から軽々と名乗ったら呪いが降りかかるのと同様です」
「勇者って居るんだ。魔王も居たりするの?」
「居るですよ。今は倒されたって聞くです。【魔王】と【勇者】は対なので、今は勇者も居ないようです」
「おっと嬢ちゃん、聞き捨てならねえな」
ノムの後ろから鎧姿の大男がぬっと現れる。口からは強い酒精の匂い。髪は鮮やかなオレンジ色。
「俺は勇者として呼ばれてるんだよ。現役勇者が居るってえのに、呪いだなんだ陰気臭えこと言いやがって…ん?」
男はカナデに視線を動かすと下卑た笑いを浮かべる。
「へえ、無加護の魔王の手下が一丁前に飯食ってらあ。消えろよババア、無加護がうつって人様に迷惑だろ?」
ブチィという効果音が聞こえるほどに空気が変わった。ノムの緑色の髪がふわりと揺れる。
「無知蒙昧のノーネームが。口を慎め。下郎」
いつもの取ってつけたような「です」が完全に消えている。
「あん?よく見たらお前も亜人じゃん。人間様に楯突くなよ、このブス」
男はノムの椅子を蹴りつけた。いや、蹴りつけようとした。
「…へ?…れ?」
利き足の膝から下がなくなっている。転がっているはずのものもない。本来なら血液が大量に流れ出る所だが、1滴も出ない。
「俺の足…あし…?」
「さて、次は腕か。芋虫。這いつくばれ。赦しを乞え。このお方は【革命】の二つ名を持つお方ぞ」
「ふ…二つ名あ?貧弱ババアの妄想も大概に…ひっ」
両腕が消える。
「よく喋る虫。次は耳だな」
「ぎゃ…ひぎぃぃぃ‼」
男はぴょんぴょん飛びながら店を出ていった。
ふう、と大きく息を吐くとノムはいつもの雰囲気に戻っていた。
「一時的に腕や足の分子をちょちょいと弄って屈折率を歪めて不可視化しただけです。明日には元通りですよ」
「いや、今蹴ろうとした足が空振ってたよね。不可視化だけじゃ…」
後ろに居る店員の目が怖い。
「ちょっとお客さん。正当防衛なのは分かるけど、町中で魔法を使うのはご法度だからね。今守衛呼んでるから、大人しく待ってて」
「ひゃ…ひゃい…」




