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サムライ·イン·ザ·ダーク2

「売れない…」

カウンターに積まれた大量の在庫に立ち尽くすノム。

「品質や効能に対してのクレームは一切ない、ストックを買うのに躊躇わない程度の価格設定、耐久性も申し分ない……はっ」

「カナデ、もしや…」

「うん。可能性としてはあり得るかも…」

丈夫に作りすぎた。

収集癖や浪費癖がない限り、人が同じ物を買う時はその物が壊れた時や洗い替えのためである。

下着と言えど常に清浄魔法が発動しているため頻繁に洗う必要もなく、また丈夫で壊れない。

「そう言えば私が居た世界だと、多機能で高価ですぐ壊れるように何でも作ってた。SDGsとか言ってたけど、産業自体がそれと逆行する構造だったから」

「精霊に怒られろです。物は丈夫に作ってなんぼです」

「特に私の国は物に魂が宿るって思われてたから、古いものを凄く大事にしていたの。昔の家電は40年以上使えるのもあったみたいだけど、最近のは10年使えれば十分って言われてるから…」

「家電?魔道具みたいなものです?」

「そう。魔力の代わりに電気で動かす道具だよ。それをいっぱい買ってもらうために脆く作るの」

「狡い商売です。魔道具はメンテナンスさえしっかりすれば半永久的に使えるです」

「それじゃ商売にならないらしいよ」

ノムが深いため息を吐く。

「一旦ふんどしは製造中止にするです。他の道具のアイデアを考えるしかないですが…」

視線をずらす。ふんどしの山の横には王都のギルドマスターから今朝届いたばかりの質問状がうず高く積まれている。

「もう…書き物はイヤです…」

「手伝いたくてもこっちの字は読めないし書けないからな…」

口頭でのコミュニケーションは翻訳魔法のタリスマンがあるので問題ないが、翻訳魔法は音声に対して働きかけるものであって文字には対応していない。

「良いこと思いついたです。ちょっとその眼鏡貸すです」

「いいけど、もしや…」

乱視と近眼で、裸眼のままだとノムが2重にボヤケて見える。2階の工房スペースへと上がっていく音がする。

「すぐ返すです!ちょっと待つですよー」


数分の後、見た目も重さも変化がない眼鏡が手渡される。

「…流石にいきなり持っていくのはなしで」

「善処するです。前向きに検討するです。取り敢えずかけてみるです」

カナデがいつもの眼鏡を掛けると、世界は一変していた。

「…読める。本の背表紙も、全部」

「翻訳魔法の魔法陣をレンズにシート状にして貼り付けてみたです。魔法陣自体に不可視化構文を追加することで視界もクリアになるです。あと、これも」

見た目は何の変哲もない羽ペンである。

「書こうとする言葉を勝手に翻訳して自走するペンですよ。ペンに合わせて書いてる内に文字の勉強にもなって一石二鳥…」

「ちょ、ノムさん待っ…」

「さあ、これからバリバリ働くですよー。アイデアが湧き上がって仕方ないのですよー!…クックック…‼」

ノムの目は、夜勤明けの母親のナチュラルハイを彷彿とさせるものであった。

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