サムライ·イン·ザ·ダーク1
パワードふんどしは職人層に大層受けた。
力仕事による筋肉や関節の痛みや負傷のリスクが軽減され、作業効率は劇的に向上。
休日は寝たきりだった労働者は疲労軽減により余暇を楽しむ余裕ができる。精神衛生的な意味でもQOLが格段に上がった。
何より臭いが気にならなくなったと女将さん連中からも大好評であった。汗みどろでデートをしても彼女から嫌な顔をされなくなったと、若い職人から追加注文が来る程だ。
たった布切れ一枚で、労働改革を起こしてしまったのである。
おかげでノムの報告書ノルマは日を追うごとに多くなり、製造に専念することも、ライフワークである新たな道具や技術の発明からも、次第に遠のいていった。
「文字ばっかり…もうイヤです。魔石触らせろです」
「地の魔石は触れないのでは?」
「うわぁぁぁん、カナデが意地悪言うですぅぅぅ‼」
ガン泣きであった。齢うん百歳による、お手本のような駄々コネであった。
門外不出の技術だが技術者本人が携わることができないという最大のジレンマを克服したのも、また無属性魔法であった。
無属性魔法は別名【分子魔法】とも呼ばれ、物質を構成する分子を操作することによってあらゆる事象を引き起こす。
固い魔石を糸状に加工するには様々なプロセスが必要だが、その工程を誰にでも再現可能にするのが、無属性魔法に特化した技術者たるノムの真骨頂であった。
作業台には2種類の魔法陣が配置されている。
1つは特定の物質·魔素質にのみ作用し、分子結合のエネルギーを吸収することで粉状に加工する魔法陣。
もう一つは袋に魔法陣が直接書かれており、指定した箇所から勢いよく液体を噴霧する構文が刻まれている。
必要な資材は地の魔石とシルクスパイダーと呼ばれる魔物の腹から取り出したエキス。
魔道具作製に於いて水水晶と呼ばれるレジンのような触媒を用いることが魔道具業界では一般的だが、細く加工するのにも質感を柔らかくするのにも不向きだ。
故に魔物素材である。
蜘蛛の糸の材料であるタンパク質液に魔石のパウダーを配合、蜘蛛が糸を吐く時と同様、一気に混合物を射出して乾燥させることにより糸を作る。
あとは糸を撚って扱いやすい太さにし、綿糸や絹糸と共に織り上げるのだが、この糸を撚る工程でエルフの魔力を込める事により【エルフの羽衣】と呼ばれる多機能かつ高品質の布になるのである。
一方、全工程を魔法陣に頼り、魔力量の少ない者が糸を撚った場合、魔石の能力の半分も引き出せない。パワードふんどしは言わば【劣化版エルフの羽衣】だが、それでも日用用途としては過ぎた代物であった。
何より、双子の織る布はただでさえ仕事が丁寧で、品質も貴族の御用テーラーが早馬で取りに来るレベルである。
滑り出しこそ順調だった。
しかし、どんなブームも終焉は唐突にやってくる。




