おっさんミーツガール6
ゴブリンキングは動かない。吐く息は白く、土は凍り、大気は飽和水蒸気量が極端に下がり靄が立ち昇る。
魔力を帯びた氷は薄ぼんやりと光り、グロテスクな異形の亡骸すらオブジェのように見える。
そう思うのは普通の視界を持つ生き物だけで、夜目の利く吸血鬼からすれば気持ち悪い以外の感想は浮かばない。
小さな手でぎゅっと目を押さえている幼子に惨状を見せないよう、そのまま抱き上げて運ぶ。
「おじちゃん、まだおめめギュー?」
「ん、もう大丈夫だな。さて、一旦おうちに戻ろう」
息も微妙に止めていたのか、ぷはっと息を吸うとニコッとした。
「おじちゃんあったかいね」
「ふむ、俺は良いが、他の人におじちゃんはやめておけ」
「?うん。わかったー」
白い髪がさらさらと揺れ、緑色の頬がぷっくりと上がる。
(幼子…温い…)
案の定、セーフハウスは半壊していた。玄関と食堂は辛うじて使える。地下室への階段、本棚、棺桶の部屋が無事だったのは不幸中の幸いであった。
「おじちゃんはふかふかでねない?」
「俺は太陽に当たったら火傷しちゃうからな、これで寝る」
「はこー。ねるのいっしょ?」
「それは流石に…」
見ず知らずの幼女とひとつ屋根の下云々は、孤児院に住んでいたら日常茶飯事ゆえなんとも思わない。が。
(俺は幼子に劣情は催さない。しかし、嫁入り前の娘さんと枕は二つ、布団はひ·と·つ☆など、俺が親御さんなら鉈持って襲いかかるレベルだぞ。まあ、一生エクストラバージンだがな!)
「よし、ここに布団とマットレスを敷こう。お前はそこで寝る。俺はこの箱。良いな?」
「わかったー」
「ちょっと取ってくるから待ってろ?な?」
上階の寝室は見れば見るほど惨憺たる有様だった。しかし、案外布団もマットレスも無事なものが多く、調達に事欠かなかった。
残り少ない魔力を重量操作の魔法に注ぎ込み、おぼつかない足取りで階段を降りつつマットレスを運ぶ。
ようやくマットレスを床に置いた頃、少女の姿は棺桶の中だった。健やかな寝息を立てている。
(俺の寝床…ま、いいか)
翌日、夕刻―。
「なんでやねん‼」
大声量であった。齢80オーバー、ピチピチの老婆による魂のツッコミが施設に響く。
「顔見せえ言うたんはわいや。それはしゃーない。せやかて、毎日は流石に来すぎとちゃう?働け!っちゅうかなんで増えとんねん!」
「いや、これにはかくかくしかじか、まるまるうまうま…」
「ふむふむ、せやなー。海より高く山より深い事情がー…ってわかるかボケエ!ノリツッコミさすな!」
何処からともなく拍手が聞こえる。見る人が見れば名人芸そのものの絶妙な間であった。
「で、この子を鍛えて欲しいって?」
緑色の肌の少女はキラキラとした瞳でユキを見る。
「ばあば、つおい?」
「せやで。こわーい鬼婆やで」
昨日とは打って変わり、前歯が殆ど抜けた口をニッと開いて笑う。
「ありがとね、ブラム。良いことではあるんだけど、最近新規の孤児がめっきり減っててね」
トーマスがそっと耳打ちする。
「それは、良いことだな」
「うんうん。ところで、お名前をさっきから聞いてないんだけど」
「ああ…」
聞くのを忘れた。むしろゴブリンの言葉で発音する場合、正確に発音できない可能性がある。
「ん?おなまえってなーに?」
「「「…………へ?」」」
前言撤回。幼女は名無しであった。
正ヒロイン登場!第一部完。
毎度お目汚しすみませんです。今回も通勤電車でニチャニチャしながら書いております。お巡りさん、こっちです。
さて、まずは謝辞と言い訳をば。
この度累計500PV突破しました。無名なアラフォーとしては誠に嬉しい限り。20話めくらいで切ってる方々も多いと思います。賢明な判断です(笑)。ここまで読んでくださった皆様には心より感謝を。
言えない種族や童◯等に関しては、全年齢対象なので表現はマイルドにしてます。少年誌だって「◯しゃぶらせろ」ってキャラもいるし、そこはお目溢しいただければと。
ノムは地属性の魔石は扱えないはずなのにパワードふんどし作っちゃってます。そこは追々作中で語ります。
ようやく導入部分も終わりましたので、ブラムとカナデの時系列はこれから並行します。中弛みは覚悟の上で、ゆるゆるとお付き合いいただければ幸いです。




