おっさんミーツガール3
「遅い!遅すぎる‼」
施設の扉がノックを待たずに開かれると、老婆が開口一番に叫ぶ。
「イネスさん、全然知らない人ですよ。ビックリしていらっしゃるでしょ?」
奥から修道服を纏った女性が追いかけてくる。
「はん、違うか…」
老婆はそそくさと踵を返していった。
「失礼しました。ご面会のお約束はされてますか?」
「いや、約束はしていないのだが…失礼。私はブラムと言うものだ。トーマスかユキさんはおいでかな」
「ブラムさん…ああ!ユキさんのお話で時々聞いてました。どうぞ、こちらです」
女性の後に続いて屋内へと足を踏み入れる。
「あ、すぐ閉めてくださいね。脱走癖のある子が居るので」
後ろ手にそそくさと閉めるとさっと鍵を閉める。ドアノブだけでなく、天井スレスレの所にも鍵がある。
女性に通されたのは食堂のような広間だ。夜も更け、広間に居る人も疎らだ。
「ここは孤児院と老人施設を兼ねております。おかげで認知症の進行が遅くなる方も多いんですよ。少しお待ちになって」
椅子に勧められるままに座る。老人たちの好奇の視線に目礼で返す。
「遅い!遅すぎる‼」
先程も聞いたようなセリフが、今度は別の老婆から聞こえる。先程の老婆と違い、背筋がしっかり伸びている。他の老人たちも白髪ではあるが、こちらはもっと透き通るような銀髪の持ち主だ。
「ユキさん。ご無沙汰をしております」
「ブラムか。図体ばっかりデカくなりよってからに」
よっこらしょっとブラムの向かいに座る。
「息災そうで何よりです」
「息災も何も、ぼちぼち迎えが来るで」
「何をおっしゃる…」
「ホンマや。もっと早う顔見せんかい」
肩をバシッと叩かれる。往年の彼女とは異なる、力ない手。
「実は、トーマスから預かっていたものをお返しに上がりました」
「銭か。ふん、律儀なもんやな。ちゃんと教えたこと、覚えとったんやな。えらいやっちゃで、ホンマに」
重みの増した小袋を、その皺が寄った手にそっと乗せる。
「あの世に銭はもってけんよって。返さんでもええのに」
「いただけませんよ。恩はきちんと返さないと」
「ふん、そこまで覚えとったか」
急に目を伏せる老婆。
「みいんな律儀やったな。律儀すぎやで、みいんなわいより先にいってもうた。銭こが大事やって言うてきたんやけどな、命あっての物種やでって、ようけ言うてたはずなんやけどな。悔しなぁ…」
その圧倒的な魔力と人望で孤児院を導いてきた、【銀氷の魔女】の二つ名をもつ元冒険者は、目に光るものを浮かべ苦々しく笑う。
彼女に憧れて冒険者になった若者は、孤児院には多かった。孤児院を卒業した後の彼らを、引きこもりだったブラムには知る由もなかった。
「あんた、昔っからヘタレやからな。ちゃーんと、長生きしいや」




