おっさんミーツガール1
今日も今日とていつも通り、遠隔操作の氷刃を大盤振る舞いして狩りに勤しむ。
最初こそ獲物をストックするための頭陀袋やら、必要経費が(無収入のブラム基準で鑑みれば、だが)それなりに嵩んだが、実績を積んでいく内に懐も暖まってきた。
特に商業ギルドのサーシャから狩る動物のラインナップについて注文がつくようになってからは、服を新調する欲も湧いてきた。
「最近、ウルフ系の動物素材が大量に必要でして。氷魔法を扱えるブラムさんなら苦戦しないと思います。あと、あまり血抜きしていないものもいただけますか?勿論、こちらからの指定ですので買取金額の減額はございません。ご安心ください」
実際、小型の肉食獣であれば草食動物と難易度は変わらない。オークを氷漬けにし屈強な輩を撃沈させたことで、多少自信がついた。
(もう、貧弱モヤシのブラムちゃんとは言わせないぞっと。とは言え…)
苦い記憶が頭をもたげる。
それはある春のこと。某オーク集落での出来事。
性欲が制御できないオークは、相手が同性であっても見境がなくなることがある。
その時は種族特性の霧化がなんとか成功したので逃げ果せたが、霧化から人間の姿に戻る時に調整を間違えて小枝などを体内に取り込んでしまい、その処遇とフラッシュバックに延々頭を悩ませたのは何年経っても鮮明に思い出せる。
(身ぐるみ剥がされるのも尻を狙われるのもごめんだ。枝もごめんだ…)
そうこうしている内に頭陀袋もいっぱいになり、身だしなみを軽く整え街に向かう。
いつも通りの買取手順、いつも通りの冒険者ギルドの扇情的な恰好の職員たち。そこに紛れて、かっちりと制服を着込んだ女性が走り回っている。胸元も圧巻の副長に比べれば些かさみしい。右袖はゆらゆらと揺れている。
「どこかで見たことがある顔だな」
サーシャはブラムの視線の先を追うとにこやかに頷く。
「“業炎のアマリリス”さんですね。実は冒険者ギルドでクエスト中に負った重傷による引退者を救済する規約ができまして、あの方がその制度の試験運用第一号を買って出てくれたんです」
二つ名は高ランク冒険者の証だ。自分の体より太く長い大剣を、あの細い体躯の何処にそんな膂力があるのかと思うほど軽々と扱う。大剣使いにありがちな粗暴で脳筋な言動を一切見せず、いつも静かに佇んでいる姿が印象的だった。
鮮やかな赤毛の三つ編みが走る度にぽんぽんと跳ねる様は冒険者の頃の全身凶器のような雰囲気とはかけ離れており、なんとも初々しい。
が、次の瞬間ー
頬を何かが掠め、後方に木と金属がぶつかる音が響く。後ろを振り向くと1本のナイフが柱に突き刺さっている。前を見れば鋭い視線の隻腕の乙女。
「ちょっとー!アマリリスったら初日から刃傷沙汰はやめてよね!」
「今そこに魔そ…」
「それは後で聞くから、ちょっと休憩しましょ。初日から飛ばすと後がキツイわよー」
リリーがわざとらしく高飛車なオホホ笑いを上げながら無理矢理アマリリスを引っ張っていく。元大剣使いの膂力に引けを取らない爆裂グラマラス美女の爆誕に、一時場内が騒然となる。
「ブラムさん!お怪我はございませんか!?」
「大丈夫だ。問題ない」
サーシャの言葉に辛うじて生返事する。
幸い、種族能力ですでに傷は癒えている。それも傷ができているという認識を周囲に悟らせないほどのスピードだ。
(……ちびった……どうしよう……)




