隻腕の新人
真新しい制服に袖を通す。しかし右の袖には通すものがない。
冒険者ギルドからの要請でギルド職員として招聘の打診があったのは一ヶ月前。
元冒険者としての知識量を活かして冒険者たちや職員の精神的サポートをしてほしい、というギルドマスターからの直接の依頼であった。
確かに、クエスト中の大怪我で出血多量になり、一時は生命の危機ではあった。しかし魔物に負わされた傷は右腕を失った直接的な原因ではなく、どちらかというと冒険者仲間に切断してもらった、というのが正しい。
とある集落の魔石採取と聞かされていた。魔石の塊は不定期に各地に発生する。魔素が濃く出ている地域に発生すると考えられており、一部の高ランク冒険者にしか依頼されない。当然、魔素汚染に関する情報も聞いていたし、今回はギルドからの直接依頼だったことに、若干の危機感を感じていた。
大剣使いだった彼女は魔素汚染されている住人により右腕に傷を負わされ、そこから魔素が体内に流入。その流れを切断するため、右腕を隊のメンバーに切り落とさせた。右目まで及んだ魔素の侵食だったが、大量出血したことで体内の魔素は全部押し流された。
自分が最前線に立ったことで、他のメンバーがそこまでの重傷にならずに済んだのは不幸中の幸いだった。
意識が戻った時、真っ先に自分の腕がないことより、泣きながら切り落としてくれた別の大剣使いのことが気にかかった。彼のメンタルを心配している自分は、相変わらず何処か人として抜けているのではないかと自嘲する。
冒険者は当然引退するつもりだった。
当面の生活費の補助になればと、装備は知り合いに買い取ってもらう。
自惚れるつもりはないが、それなりに名の売れた冒険者の武器であればプレミアが付く、と彼は言っていた。
装備を売って身軽になった所でギルドへと向かう。会員証は放っておけばその内失効するが、戦えないのにいつまでも在籍するのは居心地が悪い。
カウンターで受付嬢に声をかけると、ギルドマスターが血相を変えてすっ飛んできた。元冒険者というだけのことはある。凄まじい体のキレとスピードであった。
「貴様…ちょっと来るのが早すぎやしないか?」
過酷なトレーニングや数多のクエストを熟す内に、彼女は常人とかけ離れたメンタルタフネスと身体のリカバリー機能を持ち合わせるまでになっていた。本人は全く自覚はないが。
「冒険者としては真面目すぎるからな。アマリリス。お前のその真面目さは貴重だ。ウチの職員も冒険者どもの自堕落さに流されすぎてどうも最近締まりが悪い。…どうだ?一緒に働かないか?」
即決だった。頷くしかなかった。
数日後職員用の下宿をあてがわれた。狭いながらも当面寝るのに困らなくなった安心感で、その日はすぐに眠りに落ちた。
その後は左手で文字を書く自主練習や筋力トレーニングを毎日熟し、また、大剣以外の攻撃手段も持つべきだろうと魔法やナイフの投擲技術などを他の冒険者から学んだ。
ここまでやれば大丈夫だろうという気持ちはなかった。とにかく愚直に貪欲に。全ては冒険者たちが自分の二の鉄を踏まないように。鍛錬に次ぐ鍛錬、勉強に次ぐ勉強、何日も連続稼働しては泥のように眠る日々が続いた。
そうして迎えた初出勤の日。魔素で変色した右目を隠すようにモノクルをつけ、いざ職場へ一歩足を踏み入れる。
カナデさん‼彼女、元気になりましたよ‼良かったですね‼といち早く教えて差し上げたい所でありますが、そこはグッと我慢の子です。
アマリリスちゃんのキャラはかれこれ10年前、全く別の話のプロット中に出来上がっておりました。モノクル、ツーブロック、義手、三つ編みという、なかなかけしからんキャラデザでした。ブラムさんもその話の出身ですが、当時は追う側追われる側という関係。
今回は仲良くなれるかな。筆者としては、ちゃんと彼女を世に出せたのでホッとしております。




