起こせ、産業革命4
「くそっ、この非常時に自分の欲を優先しやがって。この魔道具オタクが」
「お褒めにあずかり光栄ですよ、ギルベルトくん。でも、冒険者ギルドの皆様はよくご存じのはずですよ。光の魔石は殆ど手に入らないことも、今の付与術式では次にこういう場に遭遇した時に在庫切れを起こす可能性があることも」
「ふん。その存在自体、あるかないかも分からないような代物に縋るほど、こちとら耄碌してはいないんだがな」
「おい、やめろ!オトナ気のない…」
火花を散らす2人を制止するグレゴリー。
「…作れるです。製法も、これから言う材料についても、一切を他言無用でお願いするですよ。あと機織りする人が居れば、量産はさほど難しくない、です」
レクターの目が輝く。それまで蚊帳の外だった紡績職人たちもざわめき出す。
「【エルフの羽衣】?そんなん聞いたことがあるか?」「っていうか、付与魔術用の包帯の量産じゃないのかよ、いつものようにさ」「ぐずぐずしてる場合じゃないだろ!俺の息子も調査隊で行ってるんだ‼」「マジか」「お前、ホント、マジか?」「メンタル大丈夫そ??」
「ええい、あんたたちうるさーい‼」
野太い声が響く。声の主はタンクトップ姿の筋骨隆々とした男だった。
「ミネスよ。ノムさん、と言ったかしら。弟のローネと一緒に工房やってるの。門外不出の所は絶対見ないし聞かないでおくから、その仕事、私たちに任せてくれないかしら」
ミネスの瞳はどこまでも透き通っていた。有無を言わさぬ圧力に、その場の全員が静まり返った。
「…まあ、ミネスんとこなら心配なかろう。いい仕事をしてくれるだろうて」
「だろう、じゃないわマスター。するのよ、いい仕事」
「わ、わかった。…エルフも、異論はないな」
「ないです。よろしく頼むです」
ノムとミネスは固い握手を交わした。
カナデはその夜も走り回っていた。
工房区画では男たちの雄叫びと機織りの音が木霊し、ノムは工房に籠もって魔力を込めた金糸を作る。
カナデは金糸をミネスとローネの所に運び、ミネスとローネから金糸の織り込まれた大量の包帯を受け取るとギルドのある中央区画まで走る。ギルドに納品したら追加の資材を受け取り、飲食店にケータリングを頼み、ノムに資材とケータリングを届ければ今度は金糸とケータリングをミネスとローネの所へと持っていく。そうしてまた包帯を担いで走るの繰り返しだった。
それでも疲れずに走り回れるのは、ノムがこうなることを見越してカナデに渡した疲労回復とスピードアップのタリスマンのおかげである。
やがて何度目かの往復を繰り返し、夜もとっぷりと暮れた頃、負傷者の一団が街に到着した。




