起こせ、産業革命1
交易都市レイザン。メイン通りから外れた工房が密集する区画。古い建物に見えるが、工房の設備投資に資金の大半が投入され、外観に構っていられないのはどこの街も同じようであった。
近くには花街もあり、工房の男たちはスッキリしてから仕事に取り掛かるという、なんとも男性にとっては理にかなった立地ではある。カナデにとっては花街を抜けねば最短距離でメイン通りに行くことができないのが悩みになりそうではあるが。
「子どもが薄着ではしゃいでるだけです。気にするなです」
「どちらかというと、ノムさんの情操教育的な意味で…」
「失敬な。ロリババアを舐めるなです」
「えっと…ロリババアって別に良い言葉じゃないよ?」
「ぬーん…。一つ賢くなったです」
目的の工房は他の工房と比べると敷地自体は広いが、工房本体は他の工房より少し小さいぐらいであった。
「…なんだかいっぱい浮いてるんだけど…」
「数多の魔術師がここで魔法の研究に没頭した、とギルマスからは聞いてるです。精霊たちが集まりやすいからなのか、研究している内に精霊たちが集まるようになったか…それは誰にも分からない、です」
予めレイザンの職人ギルドから預かっていた鍵を取り出すと、鍵穴に挿し込む。
工房は3階建てになっており、1階は店鋪スペース、2階は工房スペース、3階は住居になっている。
ただ、長年使われていない為埃が分厚く積もっている。鼻が異物に反応してムズムズしだす。
「持ち運び式のワープポータルはギルマスから借りたです。掃除したらワープポータルを設置して荷物を王都から転送してもらうですよ。ちょっと我慢してるですよ」
くしゃみが止まらないカナデを他所に、ノムはハンカチで鼻口を覆うように後ろ手で結ぶと、室内に入っていく。
分厚く積もった埃を指でなぞり、幾何学模様を描いていく。そうしてできた魔法陣の中央に銀貨をそっと置く。
「精霊さんたち、代価を受け取るです」
ノムが銀貨にそっと魔力を込めると、一瞬にして部屋を色とりどりの精霊が埋め尽くした。埃や黒カビが消失し、空気が浄化される。銀貨は跡形もなく消える。
「すごい…」
「これが本来の無属性魔法の使い方なのです。魔力は精霊たちのご飯ですが、代価になる触媒はお菓子のような位置づけです」
カナデが呆然としていると後ろから気配がする。
「おう、お主らが新しい家主か。早速派手にやりよるの」
声は好々爺のそれだが、下の方から聴こえる。顔の大半が髭に覆われたずんぐりむっくりの体型…。
(ドワーフだ)
カナデが初ドワーフに目を輝かせていると、後ろでノムがそそくさと逃げようとしている。
「おい、そこのエルフ」
先程とは打って変わっての怒鳴り声。
「ひゃい‼」
「王都の野郎からは既に話は聞いておる。奴に輪をかけての問題児だとな。精々問題を起こすなよ、クソエルフ」
「ひ…分かったですよ、ギルマス…」




