副長たちのエトセトラ
ギルド職員の1日は長い。役職者は尚の事長い。
客前に出る仕事ゆえ、休憩時間中には軽く清浄魔法を使い、香水を振りかけ、再び受付に立つ。
来る日も来る日も汗臭い冒険者たちの熱視線を浴びながら、なるべく笑顔を絶やさず。
「…彼氏欲しい」
ここは街の大衆食堂。冒険者やギルド職員が足繁く通う、美味い安いと評判の店だ。
扇情的な制服とは似ても似つかない、地味な町娘然とした私服姿のリリーがカウンター席でエールをあおっていると、後ろから声をかけられる。
「また振られた?」
「出会いがないのはあんたも一緒でしょ」
「わかるわ、ホントそれな」
サーシャも軽口を叩きながらリリーの隣りに座る。
サーシャの前にもジョッキが置かれ、二人はジョッキを掲げると一気に飲み干す。
ついおじさんくさいため息も出てしまう。
「それで?あの商人が持ち込んだ商品になぜ汚染がなかったのか、見当がついたみたいね、リリー」
あの商人、とは、つい1年以内に商業ギルドに新規加入した銀髪の男のことである。
「ええ。大森林には影響がない地域が存在するって仮説と、今まで通り、血抜きの際に抜けたって仮説は消えてないわ。大森林探索の難易度が変動している可能性もあるから、一度ランク上位の冒険者に探索依頼をかけるそうよ」
魔素汚染。魔王が倒されて数カ月。今、大気中に魔素と呼ばれる物質が飛散しており、人体や動植物に影響を及ぼすとして密かに調査研究が行われている。
家畜が汚染されたという話も聞かないが、汚染された動物は若干の凶暴化が見られ、皮を剥いだ際には血管に沿って黒い紋様が浮かんでいるのが特徴である。
学問都市の専門家に定期的に事例を報告するのも、現在ギルドに課せられた仕事の一つになっている。
目の前に料理が置かれた所で、追加のエールを注文する。唐揚げに芋のフライ、ピクルスと、二人が頼むものは毎回決まっている。
「これから忙しくなるわね」
「いい加減まとまった休みが欲しいわ」
「わかる。人員増やしてくれないかな」
「それなんだけど、今度うちに元冒険者が入るらしいわ。二つ名つきの」
「じゃあ、結構ランク上位だったんじゃない?」
「なんでも瀕死の重傷を負って戦えなくなったって聞いたわ」
冒険者はあくまで個人事業主である。パーティーメンバーに光属性を持った回復役が居ない場合、治療費は自腹、貯蓄がなければ引退後は他の職を探しに商業ギルドや職人ギルドのお世話になるか、治療の甲斐なく野垂れ死にとなるのが基本だ。
中には研究者として学問都市に招聘されるケースや国の機関にスカウトされるケースもあるが、ランク上位者であることが必須になる。
「ところでサーシャ、なんであの商人紹介してくれないの。あのクソ勇者もどき倒したの、絶対あの人でしょ」
「それはない」
「なんでよ」
「あの人はただの、身なりのいい商人さんよ。血抜きが完璧なのも、冷蔵方法が適切なのも、全部彼の人脈の賜物よ」
「1人でやってることだとしたら、どうする?」
男のスラッとした体躯を思い起こす。暴力を振るわれても激昂することなく、理知的な光をその金色の瞳に宿した姿を…。
「サーシャ、顔真っ赤…」
「ないないない、絶対ない!はい、カンパーイ‼」
こうしてガールズトークの夜は更けていくのであった。
こちらは半年前、カナデサイドのエピソードを書いていた時に勢いで書いていた下書きの加筆修正版になります。
リリーさんは本編でブラムさんがいい尻だと眺めてたモブ職員です。現時点で下書きで死蔵されてる話では、ブラムさんがとっくに商業ギルドに登録してサーシャちゃんからの人望を集めまくった後の話なので、それを持ってのサブエピソードが今回のお話です。時系列、ややこしやー。
というわけで、お仕事モードリリーさんはいずれ…。そして匂わせで終わったベルちゃんは、いつカムバックするのか。伏線放置だけは避けたいので、皆さま、引続き生温かい眼差しで見守っていただけますと幸いです。
ちなみに、筆者は尻派です。




