その吸血鬼、邂逅3
翌日、夕刻。日が完全に沈んだことを確認すると同時に、吸血鬼は家を飛び出した。その姿は眷属変化により白いコウモリと化している。
(トーマス、なんてことしやがる)
トーマスが昨日、縮こまりながら渡してきた小袋は、澄んだ金属音とずっしりとした重みの持ち主であった。
(金銭などと、誰の入れ知恵だ)
1人しか思い浮かばない。そしてそれは明らかに、ひげ面でも間延びしたしゃべり方でもない。自分にとっては無属性魔法で氷を錬成する術の師匠で紛うことなく恩人ではあるが、その頃のスパルタ具合は完全にトラウマであった。今だに虫を見るとその時のことが思い起こされ、胃から苦酸っぱいものがこみ上がる。
(返しに来るのも織り込み済みか。くそ、どこまでも足元見やがって…)
コウモリの姿で出せる最大速度で、施設のある交易都市へと向かう。人型の状態のほうが遥かに速く飛べるが、金銭を持ち得ない世捨て人生活を送り続けた吸血鬼なりの最終手段だった。
(このまま上空から街に入ればいい。コウモリの姿なら門番にもバレまい)
眼下の森は既に平原を走る1本の街道へと姿を変える。街を囲う高い壁が平原の向こうに現れる。白いコウモリは街を眼下に捉えると、更に高度を上げ、一息に下降する。
(引きこもりだけども、暴れるぜ!)
しかし、その気合は脆くも崩れ去った。見えない壁に強か全身を打ちつける。その見えない壁のRに沿って、ズルズルと滑り落ちていく。
(上空にも結界か…どれだけ物騒になってるんだ、この世の中は)
地面に落ちる頃には変化も解け、金属が擦れるような音が複数聞こえ、地面からは複数人が近寄ってくるような振動。背中には固い感触。
「…入門料は…いくらかな?」
精一杯取り繕って言うも、地面にうつ伏せ状態ではなんとも締まらない。
小袋の硬貨は半分まで減った。こんな状態で返すなどと、世情に疎い吸血鬼ですら非常識なのは分かりきっている。
門番たちは訝しいような憐れみのような眼差しにいたたまれなくなり、早々に街の中央方面へと歩を進めることとする。
今日はもう金銭を返しに行くことは半ば諦め、金策を求めて街を彷徨う。返済が遅れるのなら利子を付けて返せばいい。
そういえば、まだセーフハウスが孤児院だった頃、孤児院の卒業生である冒険者が時々顔を出していたのを思い出す。
幸い攻撃手段はある。先日オークリーダーを氷漬けにしたことで多少自信もついた。
身分証があれば入門料が要らないことは門番たちの口振りで何となく理解した。
「行くか…ギルド」




