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その吸血鬼、邂逅1

季節は巡り、鬱蒼とした森にも何度目かの冬が訪れる。殆ど雪は積もらないが、とにかく冷える。

土は霜柱が無数に立ち、魔物たちも小さく大人しい獣たちから順々に冬眠に入り、到底狩りなどできるはずもない。吸血鬼も例年通り冬眠と洒落込むことにした。そんな一大決心を固めながら帰路に就こうとした時―。


ウオォォォォォン…。


比較的近くから動物の鳴き声がする。オークやゴブリンと言った汎用的な魔物がそこここで集落を形成しており、犬型の魔獣もコロニーがあり、時々遠吠えが聞こえることはある。発情期には些か季節外れではあるが。

(血の匂いが濃いな。犬型魔獣の喧嘩か。巻き込まれるのはまっぴらだが…しかし…)

ここ数日狩りに失敗している吸血鬼にとって、草食獣より臭いがキツく正直美味しいとも言い難い肉食獣の血の匂いですら、食欲を駆り立てるには十分だった。

到着した頃には既に事後で、血の海の上に男が一人立っていた。

男と言っても体毛は緑がかった黒い毛並みが、返り血なのか男のものかも分からない液体で赤黒く固まりかけている。まるで二足歩行の犬のようなフォルムだが、巨躯とも言える大きさをほこる。

「トーマス、お前どうした、こんな所で」

「え、その声は…ブラム…?」

のっそりと振り向いた顔は狼そのものであったが、見る見る内に人間のそれに変化していく。ひげ面で、くりっとした目は凶暴と言うにはかけ離れている。

「し、信じてくれブラム!これは事故?じごく…?」

「自己防衛」

「そう、それ!大変だったんだよう。うちの施設から時々逃げちゃう子が居てさ、その子を探してたらこの狼にいきなり…」

「ふむ…」

事切れた狼をしげしげと眺める。夜目が利かない者には分かりづらいが、吸血鬼であるブラムにはその一瞬の変化が見て取れた。

「黒い…靄…?」

「ねえ、あの子食べられてないかなあ。心配だよう」

「分かった。俺が見てやるからお前はあっちの木でも眺めてろ。その前に、お前の怪我は大丈夫なのか?」

「へ?…痛いい。遅れてきた…いたたた」

相変わらずのおっとり加減に相貌が崩れてしまう。緊張感がまるでない、トーマスは昔からこういう男であった。

「清浄魔法をかけるぞ。痛かったら言え」

「もう、全身痛いよう」

傷口に他人の血液が入るのは避けなければいけない。早々に清浄魔法をかける。どうやら傷は浅くて済んだようだった。

お次は事切れた狼の解体。大きめの氷刃を作って手に取ると、サクサクとその腹を掻っ捌く。狼の胃の中は空っぽで、よくよく見ずとも表皮から肋が浮いているのが分かる。

「この狼には、食べられていないようだな」

「にはって…不吉なこと言わないでよ」

「すまん。俺はこれから捜索に出るが、お前はセーフハウスで一旦休むといい。食堂の棚の所に薬草ペーストを入れておいたから使え」

「え、あの家、まだあったの?ごめんねえ。頼むよう」

間延びした声を背に、ブラムは冴え渡る月の夜空を舞い上がっていった。

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