所謂巻き込まれた一般人(6)
先程の乾杯は何だったのだろうか。
いや、屋根を確保できるという点では渡りに船だった。
しかし、乾杯直後にギルドマスターから出た言葉は現代人の感覚からはなかなか頭の痛い話だった。
「ところでノム、借金返済の目処はいかがでしょう」
ノムは扱っている代物が代物なだけに、魔石を大量に使う。
一度に使う量は大したことはないが、研究開発は日夜行われ、無数の試行錯誤の上でようやく使用に耐えうる商品ができあがる。
一般的な魔石は冒険者を派遣して不特定の場所で不定期に採掘したり、魔物の解体中に採取される物が大半で、あまり数は採れない。鉱脈が発見されればその土地を所有する領主は何代先も安泰と言われるほどだ。
結局冒険者ギルド、商人ギルドを通じて国の魔導具研究機関や街の職人などに卸される為中間マージンによって仕入高は膨らんでゆく。
ノムは王都に工房を構える職人であり、職人ギルドに借金をしながら魔導具を作製、販売している。
「えっと…」
「あなたの知的財産を買い取る、という形でチャラにした分もございますが、残念ながら到底返済は無理でしょう」
目を白黒させながらスコーンを飲み下す。
「王都の店賃もバカになりませんし、そもそも王都は魔法が使える人ばかりで魔導具の需要も見込めない。そこで提案ですが」
「いやです」
「まだ何も言ってませんよ」
見ているこちらまで固唾を呑むほど、ノムの顔色は見る見るうちに青くなっていく。
「交易都市レイザンにギルドで所有している空き店舗があります。そちらに越してみてはいかがでしょう。もちろん、今まで通りレポート提出をしていただければ、家賃は負けて差し上げますし、魔石も今まで通り融通できるよう手配します。悪い条件ではないはずですよ」
「いやです。レイザンにはエルフ、居ないです」
「王都よりは亜人種に偏見がないはずですけど、情報ソースを教えていただいても?」
「…」
「そもそも、エルフとドワーフに対しては技術面での国への寄与が大きいとされ、近年保護されているのはあなたもご存知でしょう。でなければ我々はこうしてお茶を嗜むこともできませんよ。いつの時代の話をしているんですかね、まったく」
「ドワーフ、やっぱり居るんですね」
「おや、カナデさんはドワーフをご存知で」
「はい。ファンタジー小説にはよく出てきます」
「ふぁんたじい小説、ですか。時々異界渡りの方とは話をさせていただきますが、基本的な知識をお持ちなようで毎回驚きます。中には、頓珍漢なことを言う方も居ますがね」
ギルドマスターは思い出し笑いをすると咳払いをひとつ。
「話が逸れましたね。ノムに言っても埒が明きませんので、カナデさんに決を採っていただきましょう」
「行きます。交易都市」
「即決するな、です」
ある種命の恩人であるノムの借金問題もさることながら、追放されたばかりのカナデとしては他の転移者と鉢合わせする可能性もあり避けたい、というのが本音である。
「決まりですね。手配は全てこちらで行いますので、大船に乗ったつもりで居てください。ノムは今すぐ荷物をまとめること。引越し費用はギルド都合ですからこちらで半分もちましょう。後ほど請求します。良いですね」
ノムはまだ湯気を立てるお茶の波紋をただただ呆然と見つめていた。
いきなりの連投、大変失礼いたしました。
ノースキルで異世界転生ネタは今やテッパンかと思います。実際捻り出していたのはかれこれ半年前ですが、カナデさんは中学生の頃に書いてたモブキャラがモデル、ノムちゃんはセキトたちと同じ漫画で、登場と共に受験のため打ち切りにせざるを得なくなった悲運のキャラだったりします。
さて、筆者は半年前の設定を覚えていられますでしょうか(笑)。生温かい目でご覧いただけると幸いです。




