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異邦人と追憶3

【アクセスキー認証。座標データダウンロード。コマンドを実行します】

王都ギルド総合庁舎の地下、職人ギルドの倉庫にはレイザン同様、世界図書館に通じる転移陣が存在する。

グリムもまた、二つ名が存在し図書館へのアクセス権限を保持している。

職人ギルドは基本的に世界図書館の住人であるオニオン婦人が職員を務めているが、ギルドマスターが必ずしもアクセス権限があるわけでもなく、むしろ転移陣の存在すら知らないマスターも多い。

(どうやってキーを認証してるか毎回謎なんだよね。オニオンさんたちもゆっくり見せてくれないし。さて…)

喫緊の課題は全く目覚める気配のないカナデだった。ミランダ曰く、脳の損傷に関しては初期段階から完治させており、後遺症も残らないように入念に回復魔法をかけたとのことだった。

(流石に3日間目が覚めないのはおかしい。呼吸はしっかりしてるし、死戦期呼吸も見られない。床ずれもミランダがたまに来てくれるから今のところ心配はない。ただ…)

思考の海に埋没しようとしたその時、普段の図書館とは異なる光景が広がっていた。

(ランタンが…赤い?)

「お客さますみませんね。今セキュリティエラーが発生してまして、利用できないんですよ」

「そんな。だったら入口を閉じればいいでしょうに」

思わず声が荒くなる。

「すみません。バックドアからの侵入者の知合いであれば大歓迎なんですけど」

「すまない、ちゃんとわかるように説明してくれ」

オニオン婦人はコックリ頷く。

「図書館の利用規約として、転移陣を通して以外のアクセス禁止、ユーザーの思念外による情報へのアクセス禁止という項目があります。要するに、転移陣以外の所から何者かが侵入し、意図せず本の1つに紛れ込んでしまったけれど、我々では情報を閲覧·検索する権限は持ち得ないため、侵入者の情報を持っているユーザーを待っていた…しかし我々では侵入者の特定も当該ユーザーの特定もできないため完全に手詰まっている…という状態でフリーズしております」

「要するに、私が来たのはある種ジャストタイミング…だったと」

「一か八かではありますが」

「私が侵入者と面識がなかったらどうするつもりだ」

「他の人が来るまでフリーズするつもりでした。もしくはエラー箇所以外での運用を…」

「…セキュリティ規約をもう少し改善したらどうだい?せめて職員も検索可能にするとか」

「本が自分の意思でユーザーに寄り添うのが本来の在り方です。この事態はイレギュラー中のイレギュラーでした。善処します」

深いため息が出る。

長いエルフ生、こんなに融通が効かない状況はなかった。何より1人の女性の生命と自分の進退がかかっている。

片っ端から百年分の知人を思い出すしかないか…と思い始めた、その時だった。

ふと下に目をやると、トボトボと歩いてくる1冊の本がこちらを見あげている。ボロボロで今にも崩壊しようとしている。表紙には日付だけが書かれている。

「え、日記まで所蔵対象なの?」

「事実に遥かに近い場合には収蔵されることもあるようです。時々本がなくなるときがありますでしょ?あれは本自身の意思で図書館に行ったのですよ。特に、強い魔力に触れれば触れるほど、その傾向は顕著なようです」

本を開く。そこには1人の吸血鬼が、1匹のコウモリから徐々に人になっていく様が刻まれていた。文章の一部が赤く光り、その光は少しずつ移動している。

「これは…もしかして…」

「該当データ、並びに不正アクセスユーザー、検出しました。これより通常モードに移行します」

ランタンが普段の柔らかな光に戻る。

(…今、カナデさんのことしか考えてなかったぞ?ってことは侵入者は…)

顔から血の気が引く音がする。王都職人ギルド、更なる1失点であった。


……


森の中の孤児院は今日も元気な声で溢れている。子どもの1人が果物の欠片を手に、地下のコウモリのベッドへと向かう。

コウモリもまだ子どものようで、固形物は難しいらしく、齧り付いては溢れる果汁を吸って喜んでいる。

「おいしい?キューちゃん」

「キュー♪」

「いい子だね。いっぱいお食べ」

「キュッキュー♪」

(ふふふ、いい子だなー。頭撫でてあげたい。…ん?)

女の子の手から、果物とは全く異なる花の香りがする。見ると、そこここから血がにじんでいる。

「キュー?」

「手?シスターたちのお手伝いで川にお洗濯に行ったらこんなになっちゃって。あかぎれって言ってたよ。大丈夫、お薬塗ったからすぐ治るよ」

「キュー…」

(違う、そうじゃなくて、なんか歯が…ウズウズする…)

薬の匂いも言われれば確かにするが、1つの匂いが猛烈に嗅覚を支配している。

(これが…吸血衝動?逃げなきゃこの子を噛んじゃう。でも…)

抗いがたい。しかし一線を超えてはいけない。

ヨダレがボタ落ちするのを感じる。

(いいよね。ちょっと舐めるぐらいなr)

「ただいまー‼おう、いい子にしてたか‼?」

短髪の革鎧の青年が地下室のドアを開けた。勢いよく、それはもう蝶番が外れそうなほどに。

いや、実際取れた。

「ライネルお兄ちゃん‼またお家壊しちゃダメでしょ‼」

(だっれっ‼?…でも、ひとまず助かったあ…)

「アッハッハ‼勢い余っちまったなあ‼ところで、そいつが例の吸血鬼か?」

「そうだよ。キューちゃんっていうの」

「吸血鬼だからって安直だな」

「ちがうよう。キューって鳴くからキューちゃん」

「いよいよド直球だな。ほれ、上にお土産持ってきてるから、みんなで食えよ」

「え‼?やったー」

無邪気に駆けていく幼子を見送ると、ライネルは懐をゴソゴソと弄っている。

「キュー太郎、お前にもお土産あるんだ。…あれ?逃げたかな」

(生きてるんだ???)

「お、いたいた。女子には刺激が強いからなー。ほれ、たんとお食べ」

目の前に置かれたのは、ダンゴムシを彷彿とさせる多足外骨格とプヨプヨとした芋虫的な何か。

「‼‼‼‼‼」

目の前のビジュアルの強さに、コウモリは意識を手放すことにした―。

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