プロット管理と再び襲い来る厳しいレビュー
石嶺総一は、執筆ソフトを立ち上げる前に、まずChatGPT o1 proを使って新作のプロットを固めることにした。
神経質な彼は、どうしても全体構成がブレると落ち着かない。
だから最初に“深みのあるストーリープラン”をo1 proで作り、その後の実際の執筆は実行時間が早いChatGPT o1に任せる。
そうすれば矛盾を減らしつつ、スピーディに書き進められるかもしれないと考えた。
その日の午前、パソコンの前に腰を下ろすと、総一はo1 proに指示を打ち込む。
「主人公が謎の遺物を手に入れ、その力をめぐって異世界へ渡る長編のプロットを組んでください。
章数は十。
第二章で力を自覚し、第五章あたりで苦境に立たされる展開を入れてほしい。
終盤には予想外の裏切りを用意して、伏線が回収されるように。」
画面にくるくると読み込みマークが表示され、三分後、o1 proの丁寧な構成案が並んだ。
伏線の貼り方、キャラの動機づけ、クライマックスの山場などが理路整然と書かれている。
「おお、すごいな。
なるほど、こうすれば物語が一本筋で通るのか。」
総一は思わずうなずいた。
ただ、文体を要約する部分などは文学調の文章に寄りすぎている印象があった。
そこで総一は「プロットだけありがとう。実際の文章はChatGPT o1で書いてみるよ」とつぶやきながら、o1 proの出力をコピーペーストして別ファイルに保存する。
そして今度はChatGPT o1を起動し、先ほどのプロットと人物設定を再掲してから執筆に入った。
「よし、まずは第一章と第二章を書き直そう。
前の章で大まかな場面はできてるけど、整合性が怪しいし、キャラの口調がブレてる箇所も多い。」
彼はパソコンのキーボードを叩く。
今回はプロットという地図があるので迷いが少ない。
しかもo1のレスポンスは数秒で返ってくるので作業がスイスイ進む。
ただ、スピード重視で書かせているうちに、ちょっとした問題が起きた。
例えば、第一章で“主人公の服がボロボロのフード付きコート”と書いたのに、第二章冒頭で“颯爽としたスーツ姿で登場”していたり、名前の表記ゆれが発生したり。
「やっぱり毎回あらすじと設定を貼り付けないとダメか。
忘れないうちに、こまめにプロンプトへ前章の要点を入れておかないとな。」
そう呟いたところで、スマホが鳴る。
画面には「佐久間海里」の名前。
「総一、執筆どう?
またチェックしてもいい?」
電話越しの声は相変わらず穏やかだが、細かい指摘を容赦なく投げてくる佐久間の姿が思い浮かぶ。
「ありがたい。
じゃあ第一章と第二章を読んでみてくれない?
キャラ設定がブレてないか、あと伏線をきちんと入れてるか確認したい。
あ、文体はラノベ寄りにしてあるから、変な箇条書きにはなってないと思う……たぶん。」
数十分後、データを受け取った佐久間からビデオ通話がかかってきた。
画面にはスーツ姿で少し首を傾げる彼の姿が映る。
「うん、面白いよ。
でも、第一章で謎の遺物を拾った理由が弱いかな。
もう少し、主人公がその場にいた必然性を書き込んでもいいんじゃないかなって思った。」
「なるほど。
さすが佐久間、的確すぎて助かる。
じゃあそこはo1に追記してもらう。」
総一はすぐさまChatGPT o1を呼び出し、プロンプトにこう入れた。
「第一章で主人公が遺物を拾う理由を強化してください。
例えば幼少期から冒険好きで、伝承に惹かれていたという描写を入れたり、偶然ではなく必然性があるように表現を付け加えて。」
すぐに返ってきた文章は、まだ粗削りながらも筋が通っており、総一はメモを取りながらそれを自分の文体に加筆修正していく。
しかし、その手間を惜しまないあたりが、彼の“校正や推敲に時間をかけすぎる”性格をよく表している。
翌日、進捗のチェックを兼ねて、総一は再びChatGPT o1に“編集者モード”でレビューをお願いした。
すると、「主人公の動機づけはよくなったが、今度はテンポが遅くなりすぎている」という新たなダメ出しが飛んできた。
「お前が書いたもんだろ……。
深みを出せって言うから出したのに、急にテンポとか言われても。」
頭をかかえつつも、彼はそれでもレビューの指摘を無視できない。
「読者が飽きる要素があるなら、そこは修正しなきゃ。
ただ、どこまで合わせるかは最終的に俺が決めないとな。」
そこで総一は、新たに「伏線を整理したノート」を開いてチェックする。
o1 proで作ったプロットには、五章目で大きな苦境が待ち受けると書かれていた。
しかし今の状態だと、その苦境への布石があまりに少ない。
「ここで初登場の敵キャラがいるなら、第二章か第三章あたりで名前だけでも出しておくべきかな。
ああ、あと主人公のトラウマをもう少し匂わせないと、五章で突然出てこられても困るだろうし。」
彼はo1 proから得た詳細プロットと、ChatGPT o1で書かせた本文を照らし合わせて、薄い伏線を随所に挿入する。
例えば第三章の冒頭で、“主人公が以前から感じていた不安”を一文加えておくとか、敵組織の噂を町の人が噂する場面を挟むとか。
その都度、佐久間にも確認をとって「これなら自然かな」と意見を交わす。
しかし、伏線を貼れば貼るほど、レビュー時に「回収が大変になる」と指摘されることもある。
編集者ChatGPTが容赦なく「ここに出てきたアイテムを忘れている」「敵の目的がまだ曖昧」と責め立てるのだ。
総一は深夜のパソコンに向かって「うるさい、そこはこれから書くんだよ」と心の中で突っ込みつつ、それでも指摘された箇所をメモする。
このプロット管理の煩雑さに、総一は思わず愚痴をこぼす。
「まあ、使いこなせてるとは言えないかもしれないけど、やっぱり人間が最終調整しないと無理だな。
一度で完璧に仕上がるなんて思わないほうがいいか。」
数日後、書き上げた第三章と第四章をまとめて“編集者モード”にレビューさせると、またしても“内面が浅い”と“展開がクドい”の相反するコメントが並んだ。
総一は苦笑してパソコンを閉じる。
「結局、最後は自分の目と感覚で調整するしかないってわけか。
でも、それが作家の仕事なんだろうな。」
そう言いながら彼は机に置いたコーヒーをすすり、すでに冷めきった苦味を味わう。
まだ書きかけの長編原稿がモニターに広がっているが、o1 proで生まれた骨格と、o1で執筆している本文をうまく噛み合わせれば、新人賞へ向けた作品に仕上げられると信じ始めていた。
伏線だらけで収拾がつかなくなるリスクはあるし、レビューに振り回されることも多い。
それでも、彼の表情には微かなやる気が宿っている。
次の章こそ、ストーリーの山場をうまく作り込もうという想いが、メガネの奥で灯った瞳に見えていた。