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ChatGPT o1 proへの挑戦と作中作ラッシュ

「ところで大神さん、ChatGPT o1 proって4oより高性能なモデルがあるらしいですね。月額が高いって聞いたんですけど、本当なんですか。」

石嶺総一は最近仕入れた情報を、電話で大神祐二にぶつけてみた。

黒髪の短髪をかきながら、パソコン画面に表示されたチャット欄を見つめていた。

がっしりした体格の大神は、電話越しに低い声で答える。


「そこはネックだな。

4oよりも深みのある表現ができる代わりに、月額利用料がかなり上乗せされる。

そのぶん文章のクオリティは確かに上がるが、ライトノベルっぽく書きたいときにはあんまり向かないこともあるらしい。」


「なるほど。

でも、せっかくなら試してみたくなりますね。

ラノベ風を目指してるのに、やたら文学的になったら困るけど……」


「ハハ、そりゃお前さんのプロンプトの腕次第だよ。

丁寧に指示しないと、ずいぶん硬い文体になるからな。

あと何度も言うが、処理に時間がかかるのは覚悟したほうがいい。

数分待たされるなんてザラだぞ。

月額もかかるんだし、有効に使えよ。」


ChatGPT o1 proは、ChatGPT 4oよりもさらに深みのある文章表現が可能なAIチャットサービスだ。

高精度な応答を得られる反面、1回の処理に数分かかることが多く、ライトノベル風の執筆には細かいプロンプト指示が必要になる場合がある。

また、月額利用料は一般的なプランより高めで、費用負担が大きいのが特徴だ。

それでも、より文学的な表現や繊細な描写にこだわりたい人には魅力的なオプションといえる。


石嶺総一は、夜更けの書斎でパソコンの前に座り込んでいた。

黒髪の短髪からのぞく汗をハンカチで拭いながら、モニターに映るチャット画面に視線を注ぐ。

隣には買ったばかりのコーヒーが冷えたまま放置されていた。


「大神さん、これがChatGPT o1 proですか。

確かに、いつもの4oとは違う画面構成ですね。」


彼は通話越しに声をかける。

電話の向こうからは、がっしりした体格を感じさせる低い声が聞こえた。


「そうだ。

処理が重いぶんだけ、表現に深みが出るって評判だ。

まあ、本当に使いこなすには手間もかかるがな。」


「手間って……どのくらいですか?」

総一は興味半分、不安半分で問いかける。


「場合によっちゃ数分待たされることもある。

文章のクオリティは確かに高いが、ライトノベル向きの文体にするにはプロンプトで細かく指定しないと、妙に難解な文になることもあるらしい。

お前さんの作業スピードを落とす可能性だってあるんだぞ。」


総一はメガネのブリッジを持ち上げ、眺めるように画面を見つめる。

神経質な彼にとって、時間のロスは痛いが、より文学的な表現ができるという魅力には抗いがたい。


「最初だけだと思って、試しにやってみます。

文学的といっても、僕はラノベっぽさが欲しいんですけど、そこは頑張って調整してみますよ。」


そうつぶやいて、彼は“ラノベ風の冒険シーンを、華やかでテンポよく書いてください。

会話は軽快に。

だけど心理描写もそこそこ深めに”とプロンプトを入力する。

送信ボタンを押すと、画面にくるくると読み込みのマークが浮かぶ。

コーヒーを一口含みながら待っていると、予想以上に長い時間がかかった。


「ほんとに3分くらい経ちましたね。

あ、出ました。

えーっと……」


――作中作(o1 pro版・冒険ファンタジー)――

「エルスフィードの大地は、夕刻になると淡い黄金色に包まれる。

その光の中を駆けるミルダは、風のように細くしなやかな刃を抱いていた。

草原の彼方で、雷鳴にも似たドラゴンの咆哮が轟く。

仲間のレナトは、ミルダの瞳が何を見据えているのかを知りたいように、その横顔をじっと見つめた。

二人の間には、長年の旅路で培われた結束がある。

しかし、その絆の奥底には、互いに言葉にできない秘密が眠っているのだ。

ミルダはそっと唇をかんだ。

刃の冷たさと同じくらい、自分の中の迷いが疼く。

“今は行くしかない。

この世界を救う力は、私たちの手にあるはずだから。”

そう心の中で言い聞かせ、ミルダは一歩前へ踏み出した。」


総一は一通り読んでみて、唇をかすかにゆがめる。

「すっごい丁寧に書かれてるけど……ラノベというより、かなりしっとり系の文体だな。

あと、心理描写がこんなに重厚になるとは思わなかった。」


そこへ通話相手の大神が鼻で笑うように言う。

「だろう。

o1 proはときに文学寄りになりすぎる。

どうしてもラノベ風にしたいなら、“軽快な口調で”とか“キャラがカジュアルに喋る”とか、もっと細かく指示したほうがいい。」


「わかりました。

じゃあ次はミステリ風の短編を作ってみます。

キャラクター同士の会話は現代っぽく簡潔に、文体もライトにしてほしい、って念押しします。」


彼はそう言いながら、チャットに指示を打ち込む。

再び長い読み込みに入ったので、その間に冷えきったコーヒーを一気に飲み干す。


数分後、画面に新たな文章が現れた。


――作中作(o1 pro版・ライトミステリ)――

「クリアな夜空に浮かぶ月を背に、探偵のクロエは古いビルの屋上に立っていた。

その足元には、謎のメモが散乱している。

遠く下から警官隊の叫びが聞こえるが、クロエは動じない。

頬にかかる髪を指先で払い、元相棒のハルに向かって小さく声をかけた。

“ハル、あんたはこのメモを見て、何か気づいたことはない?

たぶん被害者は――”

ハルはすぐには答えない。

その沈黙の奥には、どうしようもない過去がよみがえっているかのように見えた。

クロエは息をのんだ。

この重い空気を断ち切りたいのに、言葉が出てこない。

廃墟のような街のざわめきと、自分たちが抱える傷跡が、どこかで重なり合っていた。」


総一は思わず手を止める。

「んー、確かにライトにはなってるけど、ここまで暗めの雰囲気にするつもりはなかった。

しかも会話があまり出てこない。

読みやすいっちゃ読みやすいけど……微妙にミステリじゃなくてハードボイルド寄りになっちゃった感じですね。」


大神の声が電話のスピーカーから低く響く。

「これがo1 proのクセだ。

表現に味が出るのはいいが、要望と外れた方向に走ることがある。

しつこいようだが、もっと具体的に指定したほうがいいぜ。」


総一は苦笑いをしながら、今度はSF風の短編を頼んでみる。

「テンポ重視。

セリフ多め。

映像的な演出をしてほしい。

…」

細かく要望を入れるうちに、自然とチャット欄が長くなる。

送信を押したあと、また数分の待機。


ようやく出てきた文章を流し読みすると、キャラクターがやたらと礼儀正しい口調で会話していた。


――作中作(o1 pro版・SF)――

「『ああ、クローヴァ様。まことに恐悦至極にございます。

大公閣下の玉座ホールへご案内する前に、こちらの宇宙港の広大さをご覧いただきたく。』


銀色の礼服をまとった執事ロボット、アルドランがそう告げると、クローヴァと副官のエイダは深々と礼を返した。

『有り難きお迎えですが、急用にて参上仕りましたゆえ、早速ご案内をお願いできませんか。』


エイダも続けて上品な声を添える。

『大公閣下からのご命令で、この任務を円滑に進めませぬと地球への報告が遅れてしまいますわ。』


アルドランは丁寧に頭を下げ、三人を先導し始める。

『恐縮ではございますが、大公閣下は一切の儀式を簡略化なさらぬお方。ご無理を申し上げますが、どうかご容赦を。』


クローヴァは苦笑しながらも、静かに歩みを進めた。

『もし必要とあらば、得意の交渉術を使うほかありませんな。さあ、急ぎましょう。』


厳かな礼儀作法に満ちた道のりは、まるで王宮への参内のよう。

二人は内心で思いどおりにならぬ儀式を案じながらも、アルドランに従い、荘厳な玉座ホールへと向かっていく。」



「いや、これもなんだろうな。

ちょっと貴族的な会話回しになってる。

“拙者はこれより惑星間航路を検分する”とか言ってますよ。

SFなのに時代劇っぽいんですけど。」


彼は頭をかきむしり、肩を落とす。

「もうちょっとこう、フランクな会話をしてほしかったんですがね……。」


「お前さん、ラノベ的に“俺たちが最強の宇宙旅団だぜ”みたいなノリを期待してたんだろうけど、AIはお堅い表現も好むからな。

調整していくしかないさ。」


そこで総一は一旦チャットを区切り、また違う要素を思いつく。

「じゃあ逆に、文学性を爆発させてみたらどうなるのか。

ちょっと純文学っぽい恋愛小説を頼んでみましょうか。

多分すごい表現になるはず。」


興味本位で“静かな海辺の町を舞台にした、センチメンタルな恋の物語を、詩的なタッチで”と指示を打ち込む。

再び数分が経過し、ようやく生成されたテキストを開く。


――作中作(o1 pro版・純文学風恋愛)――

「白い砂が波に溶けるように、彼女の記憶は遠く霞んでいた。

かつてあの桟橋の先で、真昼の月を仰ぎ見たことがある。

その月は、まるで胸の奥を映し出す鏡のようだった。

失くしたものばかり数えていた少年は、彼女のささやきに答えられずにいたのかもしれない。

海鳴りが鼓膜を揺らすたび、少年の視界は滲んでいく。

けれども、その震えた指先は、いつか寄せては返す波のリズムを知っていた。

二人が見つめ合った瞬間、言葉にはできない花が咲いたようで……」


総一は数行読んだところで、思わず唸る。

「なるほど、これはガッツリ純文学だ。

イメージは美しいけど、ラノベとは完全に方向が違う。

表現が重めで正直読み疲れそうですね。

でも、これはこれで面白いかも。」


彼はそう言いつつ、急に思い出したように編集者モードを起動してみる。

「これをラノベとしてレビューしてもらったらどういう批評をするんだろう?」


「やめとけ。

また訳のわからんこと言い出すぞ。」

大神の声に苦笑が混じる。

しかし、総一はもう興味を抑えきれず、純文学風の恋愛物語をそのまま投げてみた。


数秒後、Reviewコメントが返ってきた。

「キャラクターに動機が薄く、感情表現も曖昧です。

世界観は説明不足で、読者が入り込みにくいでしょう。

また、人物の深みが無く、場面の展開が単調に感じられます。

ラノベとしては、よりキャッチーな台詞やわかりやすい設定が必要です。」


総一は額に手を当てて小さく嘆く。

「うーん、それはラノベに求める要素だから……。

純文学風で書いたのに、そりゃ深みがないとか言われてもなあ。

それをラノベとして評価されても困るよ。」


彼は電話越しの大神に軽く愚痴をこぼす。

「カテゴリエラーってやつですよね。

これはこれで雰囲気を重視した作品なのに、ラノベのテンプレに当てはめて批評されるのは正直キツいです。」


「気にしすぎるな。

AIってやつは言われたとおりに答えてるだけなんだ。

ジャンルの違いを理解してくれないのは、まあご愛嬌だな。」


総一は肩をすくめ、チャット画面を見つめる。

深みのある表現が欲しいと思って導入したo1 proだが、ラノベらしい軽快さを保とうとするとどうしても指示が複雑になる。

そしてレビューモードでは、ジャンルを取り違えた指摘が飛んできて思わず頭を抱える。


それでも、たまに見せる独特の文学表現や言葉選びの妙には惹かれる部分もあった。

真剣に活かす道を探る価値はあるだろうと感じながら、総一はチャット欄をスクロールする。


重々しい静寂とともに、冷めきったコーヒーを捨てに立ち上がる。

今のところメリットとデメリットの両方がはっきりしているo1 proの可能性を、どう取り込むかは自分次第だと理解し始めていた。

彼は不意に振り返って画面を見つめる。

そのまま次のプロンプトを打ち込む手が止まらない。

新しい挑戦は、まだまだ続きそうだった。

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