ChatGPT小説ノウハウの模索
石嶺総一は、少し遅めの朝に駅前の喫茶店へ向かった。
黒髪の短髪とメガネの奥にある眠たげな目をこすりながら、入口を押し開ける。
そこには茶髪の短髪でスーツをきっちり着こなした佐久間海里の姿があった。
そして隣の席には、がっしりした体格と口ヒゲが印象的な大神祐二がどっしり構えている。
「総一、やっと来たな。
実は大神さんが色々とノウハウを教えてくれるって言うから呼んだんだよ。」
佐久間が笑顔で席を勧める。
「ChatGPTの使いこなしについて、専門家みたいな人なんだ。」
大神は腕組みをしながら低い声を響かせる。
「専門家ってほどじゃねえけど、編集プロダクションやってて、こっち方面の案件も多いんだよ。
それでお前さんがChatGPT 4oを使って長編を書いてるって聞いた。
なら、その長編に合った手順をちゃんと踏んだほうがいい。」
総一は椅子に腰を下ろし、姿勢を正す。
前のめりになって話を聞くのは、大神が頼もしいオーラを放っているからだ。
彼はすぐにノートを広げ、メモの準備をする。
「プロットと登場人物の設定、章構成は固めてるか?」
大神はストレートに問いかける。
総一は少し言葉を濁した。
「ざっくりは作ったつもりだけど、途中で変わりそうだし……と思ってあんまり細かくは書いてないですね。」
「そりゃ甘いな。
ChatGPTってのは、前回のやり取りや設定を忘れがちだ。
だから毎回プロンプトに前章のあらすじとキャラ設定を入れてやらねえと、すぐ矛盾だらけの文章が出てくる。
“頼むから前章までの整合性をとってくれ”とか“このキャラはこういう性格だ”って、いちいち伝える必要があるんだよ。」
大神の言葉に、佐久間もうなずく。
「以前、僕も試しに短編を書かせたとき、最初は主人公が普通の高校生だったのに、後半でなぜか女王様みたいな口調に変わってたことがあった。
プロンプトをちゃんと書かないと、ああいう謎の変化が起きるんだね。」
総一はペンを走らせながら、なるほどと頷く。
「あらすじを毎回再掲、キャラの個性を毎回書き込む……。
たしかに手間はかかりそうだけど、そうしないと混乱を防げないわけか。
じゃあ、文体とかトーンの指定も一緒に入れるべきなのかな。
たとえば“ラノベ風だけどギャグ寄り”とか?」
「もちろんだ。
ジャンルや文体の指示が曖昧だと、AIは自分なりに解釈して返してくる。
ラノベ風にしたいなら、ラノベ風と明記する。
伏線が欲しいなら“ここで伏線を貼りたい”ってハッキリ伝える。」
大神は強面ながら、話し方には一種の説得力がある。
「伏線まで具体的に書くんですか?」
総一は思わず聞き返す。
「そうだ。
曖昧に“後で驚きの展開を考えておいて”って言っても、盛り上がりが弱い場合がある。
どんな伏線をどう回収する予定かを事前に伝えておけば、最初から丁寧に書いてくれることもある。
まあ、そこまでAIに任せるのがいいかどうかは、お前さんの好み次第だが。」
「確かに……。
今まで適当に“推理パートを膨らませて”とか言っただけで、いまいち深みが出なかった。
そうか、こっちが緻密に指示しないと、ただの思いつきで文章を展開しちゃうんだな。」
佐久間は笑みを浮かべて口を挟む。
「じゃあ、実際に今の総一の作品で、プロット整理をChatGPTにさせてみたらどうだろう。
全体の章構成も先に作ってから細部を埋めるのが効率的だよね。」
「やってみます。
とりあえずまとめ直しますね。
第一章で主人公が謎の遺物を手に入れて、第二章でその力に気づく。
第三章は異世界での修行……って流れなんだけど……。」
総一はノートに下書きしていた小説の骨格をチャット画面に入力し、続けてキャラの性格や目的を書き込む。
そして「章数は全十章にしたい。
文体はライトノベル風で、ときどきシリアスな展開を混ぜて」と加える。
するとChatGPT 4oは、スラスラと全体の章タイトルや大まかな展開を提示する。
――作中作(プロット提案)――
「第一章:出会いの遺物
主人公が遺物を拾い、その不思議な力の片鱗を見る。
第二章:力の目覚め
遺物が引き寄せる事件に巻き込まれ、主人公は力の存在を知る。
第三章:試練の門
主人公は異世界の門をくぐり、修行の道へ進む……」
「すごいな。
簡単に章題まで作ってくれるんだな。
ただ、これもあくまでたたき台にすぎないわけか。
実際に書くときは、より細かい描写をこっちで指定してやる必要があるんだろうね。」
大神は腕を組んだまま、口ヒゲを指でつまむ。
「そうだ。
最終的には自分で肉づけして推敲しないと、型通りの展開にしかならない。
人間が書き込む部分こそがオリジナリティになるんだ。」
「プロットがある程度固まったら、毎章の冒頭で『前の章の要約とキャラの動機』を貼り付けてから執筆に入る……と。
そのあと、書き上がったら編集者モードでレビュー。
さらに自分で推敲。
なるほど、これを繰り返せば混乱は減りそうだ。」
佐久間もメモを取りながら微笑む。
「これなら僕も校閲を手伝いやすい。
誤字脱字を見つけたときに、すぐChatGPTに訂正してもらうのもいいかもしれないよ。
“ここで表現をもう少しロマンチックに”とか、ピンポイントで指示もできるし。」
総一は大きくうなずいてノートを閉じる。
「よし、やってみる価値はありそう。
プロット作成に手間をかけてから章ごとに執筆。
そのたびに前章のあらすじを添える。
文体をラノベ風に指定して、伏線が必要な場面ははっきり伝える。
レビューのときも設定を再掲してカテゴリエラーを防ぐ……。」
大神は満足そうに唇をゆがめる。
「まあ、俺は“面白ければOK”派なんだがな。
お前さんは神経質なとこがあるから、かえってこの方法が合ってるかもしれねえ。
失敗してもいいから、いろいろ試してみろ。」
重々しい声なのに、不思議と頼もしさを感じさせる。
総一は少し笑ってうなずく。
「わかりました。
実際にやってみます。
この方法で一気に章構成を固めてみますよ。
あとは自分のやる気と、締切との戦いですね。」
「締切ギリギリが一番怖いぞ。
早めに進めとけよ。」
大神が軽く笑うと、佐久間もつられるように笑顔を浮かべる。
総一は胸ポケットのペンを握りしめて、次の行動をイメージする。
ラノベ風の冒険活劇、そして自分が欲しいシリアスな要素。
様々なジャンルを扱うためには、この綿密な手順が必ず役立つはずだと思いながら、ノートの次のページに新たなメモを走り書きする。
ときどきガリガリとうるさい音をたてるエアコンの下で、三人はまだしばらく ChatGPTのノウハウについて語り合っていた。