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ChatGPTとの出会い

石嶺総一は、遅い午後のカフェでパソコンを開いていた。

テーブルには小さなコーヒーカップが乗り、彼は深く息をついて液晶画面を見つめる。

25歳という年齢にしては少し疲れた表情だが、それは新人文学賞の締切が迫っているせいだった。

黒髪の短髪にステンレスフレームのメガネをかけ、背筋を伸ばしてもどこか肩が張っているのは、神経質な性格が表に出ているのかもしれない。


「また行き詰まっちゃったなあ。」

声に出しても、解決策は浮かばない。

それでも書き進めなければならないのだと覚悟を決め、ノートパソコンのキーボードに指を伸ばす。

ところが、何度か入力しては消し、また頭を抱える動作を繰り返す。


そんな姿を見ていたのだろうか。

カウンターで接客をしていた有馬真理恵が、スッと彼の隣にやってきた。

ロングヘアを一つに結んで、カジュアルなエプロン姿がよく似合っている。


「総一さん、なんだか疲れてませんか。

コーヒーのおかわりいかがです。」


「助かる。

いや、どうにもストーリーがまとまらなくてさ。

新人賞向けに長編を書いてるんだけど、プロットを組んでからの細かい描写が全然進まないんだ。」


有馬は少し首をかしげながら、「ChatGPTって使ったことありますか」と尋ねた。

どこか楽しそうな笑顔で、彼女は聞きなれない単語を口にしている。


「ChatGPT。

聞いたことはあるけど詳しくは知らないんだよな。

AIで文章を作ってくれるみたいだ、くらいにしか。」


「簡単に説明すると、ネットに接続されたAIチャットサービスですね。

私が今オススメなのはChatGPT 4oってバージョンです。

速く文章を出してくれるから、アイデアに困ってる人にはちょうどいいんですよ。

一気にストーリーや設定を提案してくれるんです。」


言いながら有馬は、カフェの隅にある自分のノートパソコンを手に取った。

「こんな感じで私もミニ小説とか書かせてみてるんです。

試しに見ます?」


促されるままに画面を覗くと、そこにはタイトルがいくつも並んでいた。

「学園ラブファンタジー編」「近未来ロボット冒険譚」「純文学風片思いストーリー」など、ほんの数行の指示で生成したという短い作品だという。


「たとえばラノベ風に、と指定するとこうなります。」

有馬がサンプルを開く。

そこにはライトノベル調の地の文と、主人公の独白がややオーバーに書かれた短い一節があった。


――作中作(ラノベ風)――

「俺の名前はクロガネ・イズミ。

王立アカデミアでごく普通の学生をしていたはずなのに、なぜか美少女騎士と一緒に世界を救うことになった。

それも魔王に呪われた右腕のせいで、強力な闇の力を扱えるようになってしまったからに違いない。

まったく、こんなのゲームかアニメの展開だっていうのに……。

けど、自分にしかできないなら、やるしかない。」


明るくテンポのいい語り口が特徴的な文面で、総一は一気に読み終える。

「なるほど、かなりラノベ調だ。

ただ、確かに勢いはあるけど、ちょっと定型的というか。」


「そうなんです。

めっちゃ書くのは早いんですけど、アイデアとか表現がかぶりやすいですよね。

でも、ほら、スピード重視なら便利ですよ。

思考の整理にもなるし、面白い展開を次々考えてくれますから。」


総一は興味を引かれつつも、どこか半信半疑だった。

しかし新しい刺激になりそうだと思い、有馬の案内でChatGPT 4oのページにアクセスする。

画面に向かい、試しに「ミステリ風の短編を作ってください」と入力してみた。


すると数秒のうちに、簡潔なプロットと探偵のセリフが生成される。


――作中作(ミステリ風)――

「寒々しい洋館に集められた六人の客人は、まさか誰かが殺されるとは夢にも思わなかった。

一人目の悲鳴が廊下を震わせたとき、探偵役のイザワ・レイコはすぐに現場へ走った。

犯人はきっとこの中にいる。

しかし、足跡は一つしかない。

密室トリックか、はたまた仕掛けられた幻惑か。

イザワは震える指先をこらえながら、次々と仲間の目を見つめた。」


「速いなあ。

でも、なんだろう、どこかで読んだことがあるような定番の感じがする。」

総一はそう率直に漏らす。


有馬は笑って肩をすくめる。

「当たり障りなくまとまった文章が出てくるところが、ChatGPT 4oらしいかもしれません。

そのぶんスピードと取り回しのしやすさが魅力なんですよ。

一つの案がふるわなくても、すぐ次の案を出してもらえますし。」


「じゃあ、ついでにホラーを……。」

総一がさらに指示を与える。

画面にはこれまた短い怪奇風の文章が生み出された。


――作中作(ホラー風)――

「夜の森を抜けた先に、朽ちた洋館がひっそりと佇んでいる。

そこに灯りがあるとは思えないのに、窓からぼんやり光が漏れていた。

それを確認した瞬間、背筋に嫌な汗が流れる。

扉を開けると、生臭い風が頬を撫でた。

誰もいないはずの廊下に、足音だけが響いている。

何もいない。

それなのに、確かに聞こえる足音。

その先にある扉が、ゆっくり軋んだ音を立てた。」


「おお、これは……。

雰囲気は出てるけど、やっぱり決まり文句っぽいところが多いな。

あと、もうちょっと独自の描写が欲しいところか。」


総一の顔には、少しだけ笑みが浮かんでいる。

大量に書籍を読み込んで文体分析を得意としている彼にとって、こうした定番表現の集合体は逆に参考資料になるかもしれない。

ただ、このまま自分の新人賞用の原稿に使うのはどうかと考え、目を細めながら画面を閉じる。


「これをどう料理するかは、自分次第ってことかな。

有馬さん、ありがとう。

ちょっとこれでしばらくアイデア練り直してみるよ。」


少し満足そうにうなずく有馬を見送って、総一は席に戻る。

視界の端にはまだバイト中の有馬の姿があり、彼女は笑顔で客の接客に応じていた。

彼女には新しいものをどんどん試す行動力がある。

自分には足りない要素だと感じた。


翌日、総一は友人の佐久間海里にもChatGPT 4oの話を持ちかけた。

茶髪の短髪にスーツをきっちり着こなす彼は、出版関係にも少し顔が利く。

いつも笑顔で温厚な性格だが、文章のチェックには厳しく、誤字脱字を見逃さない。


「面白そうだね。

じゃあ試しにそのホラー風のやつ、読ませてもらってもいい?」


佐久間がノートパソコンの前で読み始めると、あっという間に目を通し、軽く首をかしげた。

「アイデアとしては悪くないんだけど、どこか型にはまってるっていうか。

これをそのまま使うと平均的になっちゃうかも。

もうちょっと総一のクセとか感情を入れるといいんじゃないか。」


「だよな。

でも、アイデアの広がり方は見事だと思うんだ。

なんせ指示を出すだけで、すぐに文章を作ってくれるからさ。

自分一人で考えるより倍速って感じだ。」


佐久間は少し興味を示したように画面を覗き込む。

「そっか。

スピード重視には向いてるのかもしれないね。

新人賞の原稿を書くなら早めにプロット固められるし、ネタ出しにはいいかも。

ただ、深みが足りないってことなら、あとから自分で書き足す必要があるかな。」


総一はうなずきながら、椅子をギシリと鳴らして背を伸ばす。

このままChatGPT 4oに頼りきるわけにはいかないだろう。

それでも、まったく行き詰まっていた自分にとって、このAIは思わぬ突破口になるかもしれないと思い始める。


「うん。

まずは自分が書こうとしてる世界観やテーマをはっきりさせて、あいつにアイデアを出してもらう感じかな。

ラノベのノリが欲しければラノベっぽく。

ミステリならもう少し丁寧に仕掛けを考えさせる。

これで少しは光が見えそうだよ。」


そう結論づけた総一の視線は、窓の外の青空を追う。

限られた時間内に作品を完成させるには、雑念を振り払って前に進むしかないのだと自分を鼓舞するようにキーボードに向かう。

今はまだ始まったばかりに過ぎないが、思いつく限りの方法で戦ってみようという気持ちがわいていた。


――その思考の中で、彼はふと別の可能性を想像する。

もしAIがもっと文学的な表現にも対応できたら、あるいは自分が踏み込めない領域まで誘導してくれるのではないか。

だが、それにはまだ経験が浅い。

次へ進むためのヒントは、思いがけない出会いからもたらされるのかもしれないと予感しながら、総一は画面を閉じて一度息をつく。

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