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「なんでいいの?嫌じゃないの?」
「今更かよ」
「嫌悪感はあるっちゃあるよ」
「でもキスさせてくれるんでしょ」
「部屋、二人きり、キスだけ、拒否したらやめる。約束守ってんならいいだろ。俺がいいって言ったんだ」
「でも明確に嫌ではあるって」
「嫌より罪悪感がでかい」
「俺は本が好きだ。小説がいい。漫画も好きだ。少女漫画もいける。絵本もいい。ただ現代芸術みたいなのはあんまし。映画も好きだ。ただリアリティショー的なのはちょっと。アニメもいいな。揺れすぎると酔うけど」
「知ってる」
「物語愛好者だ。無いと保たない。大好きだ。世間の好きとはズレてんのかもな。他にどう言やあいいのかわからねえけど」
「修学旅行で禁断症状出てたよね」
「あんときは助かった。んで、俺はどうにかすりゃあそれを満たせる。図書館にでも転がり込みゃあいいし、金ありゃ映画のチケット買やあいいし、家でテレビを点けりゃあいい」
「そうだね。もしくは誰かに語って貰えばいいんでしょ」
「でもそれがもしも無理だったら?あの修学旅行の夜、お前もいなくて、他に誰もいなくて、本もテレビも、何にもなかったら?俺はそれを考えただけで死にそうになる」
「そこまでとは正直思ってなかったけど。それで?」
「お前がそうだったら可哀想だろ」
「......」
「同情か。いやそれよりは共感性絶望って言った方が近いな。別に見下してるわけでも驕ってるわけでもねえ。俺の好きとお前の好きは、恋愛かどうかとかも差し引いたとしても、多分違うんだろうが。もしも万が一、お前がそんな絶望をする可能性があるなら、俺の『ちょっと嫌』くらい我慢しねえと、俺の罪悪感が大きすぎるんだよ」
「自分じゃないのに?」
「いかな俺だって、友達くらい大事にするぜ。想像するだに嫌なことを、友人にさせたい奴なんているか」
「......実際は、そこまで思ってなくても?」
「それがわかるくらい人の機微に聡ければ、もっと人生楽しいかもな。自己満足だよ」
「欲しいものが手に入らないのは、可哀想って?」
「恋愛的にお前を見ることはこの先もねえだろうさ。だったら代替品くらいあげなきゃなあ」
「そっか。まあ、ありがとうって言っておこっか」
「ん。その感謝は受け取っとく。ただそういうわけだから、気に病む必要はねえよ。お前のその感情が消えるまで、好きなようにすりゃいいさ」
「キスさせてよ」
「どうぞ」