ボタンがなかった
卒業式、飯島先輩に制服のボタンを貰いに行くと先輩のボタンが全部付いていなかった。
あぁ、出遅れたかぁ。
いつも、先輩はブレザーを着ていなくて卒業式の今回こそ!って思ったんだけどなあ。
人生とはままならないものである。
「よぉ、ゆず。元気にしてたか?」
そんなことを考えてるとは微塵も思ってもないような顔で先輩はこっちに来た。憎いほどイケメンだ。
「今、全部元気飛んで行きました……。ムスッ。」
「おいおい、そんなふくれっ面晒すなよw
でも、ゆずがそんなに不機嫌なの珍しいな。何があった?お兄さんに話してごらんなさいよ。」
ツンツン。
言いながら先輩は私のほっぺたをつついてほっぺの中の空気を抜いた。
「飯島先輩の……ボタンが全部ないのが悪いんだ!!」
「そんなことで怒ってたのかよw」
「そんなことってなんですか!?私にとっては非常事態なんですけど!」
先輩は女心ってもんを全然理解してない!!
「それにはな、マリアナ海溝よりも深い理由があるんだ……。」
珍妙な顔をして呟く先輩。なんかムカムカしてきた。
「どんな理由ですか!?でも、たとえ理由があっても第二ボタンだけは奪われちゃいけないんですよ!」
理不尽なことを言っているのは分かっているが、本当にショックだ。
「……奪われてはいない。理由は言えないけど。家にある。」
「えっ!?あるんですか?なんで?」
「カッコつけて、ゆずのためにとってあると言いたいが本当の理由はクソダサイから言いたくない。」
ボタンがあると聞いて、気分が高揚したので今度は理由が気になってきた。
「なんで?なんで?なんで?ボタンあるんですか?」
「本当に聞くんだな?後悔しても知らないからな?!」
「どうしても聞きたいです!お願い先輩♡」
ため息をしつつも、私の耳に口を寄せて小さな声で答えてくれた。恥ずかしそうに。
「……実は、ネットに入れるの忘れて洗濯したらボタン全部取れた…。」
「あははっ、、なんでかその理由w 付けてる時間なかったんですか?www」
私は大爆笑した。
「……笑うことないだろ。普段ブレザー着ないから昨日洗って今日見てみたら全部ボタンがなかったんだ。つけてる時間がなかったんだよ。まぁ、この顔のおかげで全部ボタン奪われたと思われたのは不幸中の幸いだったなw」
「っそれは顔が国宝級で良かったですねw」
ちなみにまだ笑いはおさまっていない。
それをみかねた先輩が言葉を放った、結構衝撃的な。
「ということで、俺の家に来ないか?第二ボタンだけじゃなくて他のボタンもやるから。」
かしこまりつつも耳を赤くする飯島先輩が可愛かった。
「はい。先輩ごと貰いに行きますねw」
先輩の家に行った卒業式の日が私たちの付き合った記念日だということだけ言っておこうと思う。
これで付き合ってなかったんですよ!?