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第4話 そんなに嬉しかったんですか?


「お会計、カプチーノ1杯で410兆ドラクマになります」


「八百屋のおっさんのしょうもないボケかよ。にしても、桁がおかしいしどこの通貨だよ」


「私が運んだんですから、当然でしょう? 適正価格です。それに原材料も高騰してますからね。当然、私の値段も高騰しています」


「田中さんの身体はコーヒー豆でできてるの?」


「いいえ、私の身体は砂糖――あっ、何でもないです!」


 勝手に自爆しそうになる田中(佐藤)さん。

 俺はカプチーノ2杯分の料金、820円をトレーに置く。

 それを見て、田中さんは不思議そうに首をかしげた。


「そっか、すみません。ソシャゲの課金し過ぎで現金に触れるのも久しぶりですよね……。ガチャを引く為の魔法石ジェムとは違って当店では1円=1円の換金率なんですよ」


「ちげーよ、1杯目のぬるいカプチーノも飲んだからな。あれはサービスとは言われてない」


「あぁ、あれはサービスにもならなかったので大丈夫ですよ」


「いいや、俺は飲んだからな。ちゃんと払わせろ、最後の1杯は無駄にしちまったんだし」


 そう言うと、田中さんは困ったように笑った。


「1杯目のカプチーノは……本当は失敗なんです。私が自分で淹れてみたんですけど下手くそで……なのでSDGsでお客様に……」


「お客様にSDGsを強要すんなよ!」


「何言ってんですか、SDGsはお客様に強要するモノですよ? ビニール袋が有料になったり、プラスチックじゃなくて紙のストローになったり~」


「ややこしいことになるからこの話題はここまでだ」


 俺はため息を吐きながら頬をかく。


「……それに、美味しかったぞ」


「――へ?」


「1杯目のカプチーノ、俺は砂糖を入れずに飲んだだろ? お前が俺好みの味に最初から調整してくれてるのが分かった。だからその……美味しかった」


 何となく恥ずかしい事を言ってしまったような気がした俺は、逃げるようにお店のドアノブを掴んだ。


「次からは、ちゃんと温かいのを頼む」


 そう言い残して店を出た直後、スマホ依存症の俺はすぐに右ポケットに手を入れる。


(……あれ?)


 しかし、いつもその定位置にあるはずの存在感が無かった。

 スマホを席に置き忘れたらしい。


 仕方なく、退店直後のドアを再び開くと――


「やったー!!」


 田中さんは右腕を高く突き上げて歓喜していた。

 そんな現場に、扉を開いた俺は立ち会ってしまう。


「…………」

「…………」


 腕を振り上げたままの田中さんと目が合い、時が止まる。

 気まずい……。

 田中さんの顔はみるみる赤く染まっていった。


「……すみません、あの……スマホを席に忘れて……」

「あ……じゃあ、その……ど、どうぞ……」


 その瞬間だけ、田中さんは教室の佐藤さんに戻ってしまったかのように声が小さかった。

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