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陰キャと陽キャ

タイトルがしっくりきておらず、突然変える可能性があります。先に謝っておきます。


誠にごめんなさい。

 入学式から一週間。

 僕はいつも通りの時間に目を覚ました。加湿器のスイッチを切って、発声練習をして、制服に着替えた。


「あ、父さん」


 一階のリビングに行くと、父が新聞を読んでいた。

 

「純、おはよう」


 父は新聞を畳みながら言った。


「おはよう。今日は仕事いいの?」


「ああ、今日は有給を使ったんだ」


 父は外資系の仕事をしている。それ故、日常的に仕事で忙しない日々を過ごしている。僕が起きるより早く家を出て、僕が寝るより後に家に帰ってくるなんてことはざらだった。

 だからこうやって朝、父と顔を合わせるのも、何だか随分と久しい気がした。


「うん。制服似合っているよ」


 優しい微笑みで、父が言った。

 そういえば……高校に入学してから、僕が制服を着ている姿を父が見たのは、今日が初めてだった。


「遅くなったけど、高校入学おめでとう」


「ありがとう」


「朝、おにぎりでいいか?」


「いいよ。折角の休みなんだから、ゆっくりしてなよ」


「いいから。たまには親らしいことをさせてくれ」


 僕は父の厚意に甘えることにして、リビングのソファに腰を下ろした。

 父が朝食を作ってくれている間、僕はテレビでも見て時間を潰していることにした。見る番組はニュース番組だ。

 

「純」


 唐突に、キッチンの父に呼ばれた。


「何?」


「どうだ。高校生活は」


「……え?」


「高校生活だよ。……一番楽しい時期だろう? お父さんも、高校で出会ったんだよ。お母さんと」


「……へー、そうだったんだ」


「文化祭に体育祭に、修学旅行とか……いいなあ。また戻りたいよ、高校時代に」


 過去を懐かしむ父の姿は……確かに、彼の高校生活が仄明るいものだったことを示していた。

 

「修学旅行は中学でもあったじゃない」


 僕は苦笑した。


「でも、お前は色々あって参加出来なかったからなぁ」


 ……そうだね。中学三年。去年の九月頃は……確かに、色々と忙しかったっけ。


「高校生ともなれば、将来への明確な目標とかも出来始める頃だな」


「目標ならもうあるよ」


「そうなのか」


「うん。……安定した仕事に就きたいと思ってる。父さんと同じように、外資系の仕事とかいいかもね」


「……そうか」


 少し寂しそうに、父は呟いた。

 少しだけ、僕達の間に無言の時間が流れた。


「よし、出来た」


 沈黙を破ったのは、父だった。

 父はお皿に不恰好なおにぎりを二つ乗せて、リビングに戻ってきた。


「ほら」


「ありがとう」


「……ごめんな。俺ももう少し料理上手く出来ればいいんだけども」


「ううん。美味しいよ」


 父の握ってくれたおにぎりは、少し口をすぼめる程度にしょっぱかったが、美味しかった。

 朝食を食べ終えて、僕は出発の身支度を整えだした。

 洗面所へ行き、顔を洗い、歯を磨き……髪は、駅のトイレで乱すか。


「じゃあ僕、そろそろ出るね」


 玄関で靴を履きながら、僕は言った。


「……純、高校ではもう友達は出来たのか?」


 見送りに来てくれた父に尋ねられた。

 一瞬、僕は言葉に詰まった。


「うん。出来たよ」


 だけど、次の瞬間には満面の笑みでそう答えることに成功した。


「行ってきます」


「いってらっしゃい」


 家を出て、僕は一つ大きく深呼吸をした。

 父に、これ以上余計な心労をかけるわけにはいかない。


 ……だから、嘘の一つや二つ、父のためなら平気でつける。


 さっきもそうだ。

 僕は父に、嘘をついた。


 一時間の通学を終えて通学する高校に、僕はたどり着いた。

 教室にたどり着くと……既にクラスメイト達は各々の友達と楽しそうに雑談をしていた。


 入学式から一週間。

 たった一週間ではあるが……この頃になると、クラスメイト間のカーストだとか、グループだとかは固まりつつあった。


「おはようさっちゃん! 今日もギリギリじゃん!」


「んー。貧血気味でー」


 派手めな人が揃った、クラスの中心的人間が集まったグループ。

 

「今日から限定レイド始まるね。レイドアワー行く?」


「そうだな。課金すれば実質タダだしな」


 特定の共通する趣味を持ち、独自路線を突き進むグループ。


「ねえ、昨日の都議会選挙の結果見た?」


「見た。推しが負けてぴえん」


 世間一般標準的普通の人間で構成される、普通のグループ。


 これらのクラスメイト達で構成されたグループの、どれに僕が該当するかといえば……答えは、どれにも該当していない、ということになる。


 そうつまり、僕はこの高校で碌な友達など、ただの一人もいやしないのだ。


 自席に腰を下ろして、僕はスマホの操作を始めた。

 入学から一週間。僕はこのクラスでぼっち街道を歩もうとしていた。


 一体、どこで道を誤ったのか。

 辟易とした気持ちの中、僕は現状の原因を少し考えてみることにした。


 が、答えは意外にもすぐに出た。


 どう考えても、こうなった原因は……入学式初日。

 それも、自己紹介のせいだ。断言出来る。


「おっはよー!」


 丁度その時、このクラスで僕が浮いた原因を作った一人の学生が登校してきた。

 その学生は……人気インフルエンサーとして日々活動しているにも関わらず、入学式以降は無遅刻無欠席で登校を続ける、このクラス一の人気者。


「おはよう! 和久井ちゃん!」


「おはよう!」


「おはよ!」


 僕を貶めた張本人、和久井春は、日陰者の僕とは違い……今日もクラスメイトからのたくさんの挨拶で出迎えられるのだった。

 ……また、辟易とした気持ちになりそうだった。


 今日も登校してきたのか、この女は……。


 たった一週間、同じクラスになっただけの付き合いだが、この頃になると僕の中で、和久井春に対する評価はある程度固まりつつあった。

 といっても多分、僕とは対照的な交友関係、性格を考えても……こう思うのは必然なことだったのかもしれない。


 僕、和久井さんみたいな人、苦手なんだよね……。


 ……今日は、変に絡んでくれないといいな。


 いや、今日こそは……という表現が正しいか。


「青山君! 何見てるの?」


 高校入学から一週間。

 このクラス内での、各クラスメイトの人間関係はある程度固まりつつある。

 正直、意外性のある組み合わせはほとんどない。見た目。性格。コミュニケーション能力を鑑みると、順当な交友関係がほとんどに思える。


 ただ唯一……。

 見た目。性格。コミュニケーション能力を鑑みた時に、おかしな交友関係の組み合わせが、このクラスには一つあった。


「ねーねー? 何見てるのー? 青山君ー?」


 片方は、クラス一の人気者。

 その人気たるや、最早学区内を越えて、国内中に広まっているほどのインフルエンサー。


「……」


 そしてもう片方は……このクラス一の根暗で、他者と碌なコミュニケーションすら取ろうとしない、対人能力皆無な男。


「青山君? 聞いてるの、青山君?」


「聞いてない。うるさいからあっち行ってくれない?」


「青山君が喋った!」


「……喋らないと思った相手にコミュニケーションを計ってきてたの?」


 今日も僕は、朝から騒がしい和久井さんにうざ絡みをされていた。


 クラスメイトからの冷たい視線が突き刺さる背中が、少しだけ痛かった。

久しぶりの連載投稿にあたり、5話ストックを用意しました。

今日は4話投稿する予定です。

私のストック管理は零細企業の経営と同じです。


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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