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キャンペーン

 学校を出た僕達は、僕達と同じ制服を纏った生徒達を追い越したりながら下校路を走っていた。

 

「はやくはやくっ! パフェ、なんか限定メニューらしいから!」


 走っている理由は、和久井さんの言葉の通り。

 女という生き物は、甘いもののためなら激しい運動だって苦ではないようだ。


「こひゅー。こひゅー」


 その点僕は、日ごろから激しい運動をせず、室内に入り浸る生活をしているせいか。さっきから息が荒れまくりだった。


「ぜはー。ぜはー」


「着いたっ」


 駅前に着く頃には、僕は体中から汗を噴出し、肩で息をしていた。わき腹もなんだか痛くて仕方がなかった。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


「そっか。無理しないでね?」


「無理した後に言うな……」


 僕は和久井さんに額の汗を拭いてもらい、ペットボトルの水を手渡された。

 生まれたての小鹿みたいにプルプルする足を必死に進め、喫茶店に入店することに成功した。


「ぷはー。生き返る」


 和久井さんに手渡された水を飲みながら、僕は言った。


「ちょっと青山君、店内で持ち込んだもの飲んじゃ駄目だよ」


「あ、すみません……」


 和久井さんに注意されて謝った後に思った。

 だったら僕が快復するまで、店外でゆっくりさせてくれれば良かったのでは……?


「いらっしゃいませ」


 漫才を見せる僕達に、店員さんが近寄ってきた。

 笑顔を振りまく店員さんに……僕は一歩後ずさり、和久井さんの背中に隠れた。


「ちょっと! なんで隠れるの?」


「……あ、溢れんばかりの陽キャのオーラに当てられて」


 疲労で気付かなかったが、よく見れば店内の装飾はピンク色を基調とした壁紙や風船など、随分とメルヘンチックなものだった。

 これは間違いなく、僕みたいな人間が踏み入るお店ではない。

 大丈夫だろうか、こんな店に僕が入店して。不法侵入とかで検挙されないだろうか?


「お二人でよろしかったでしょうか?」


「はい」


「客として認識された……だと!?」


 僕は目を丸くした。

 一体……どうして。

 この僕の風貌。隣にいる相手を見て、どれだけの人が、僕が今、この店に入店してきたと思うだろう?


 ……そうか。 

 これは何かの罠に違いない。


「青山君、変なこと考えてないで行くよ」


「……村八分とかされない?」


「村じゃないからね」


 確かに。

 僕は落ち着き払うかのように一つ咳払いをして、和久井さんの後に続いた。


「本日はご入店頂きありがとうございます」


 笑顔の店員さんは、机にメニューを置いた。


「えーっと……決まったらまた呼びます」


「かしこまりました。ご主人様」


「青山君、何食べる?」


「えぇと……」


 ……ん?

 今サラッとスルーしたけど、店員さん、僕達のことをご主人と呼んだか?

 まあ、いいか。


「んー? あ、これがミッちゃんが言ってたパフェだ」


「へえ……ん?」


 僕はメニューの一つに驚き、目を丸くした。


「ここ、チェキ売ってるの?」


 メニューの一つに、『チェキ 千円』と書かれていた。


「チェキって、一~三万くらいするよね? たった千円で買えるの?」


「あー、それは店員さんとチェキで写真を撮るんだよ」


「えっ、店員と? 何のために?」


 なんだかそれだと、店員さんがアイドルのようではないか。


「何でだろうね。とりあえず、これ頼むね。すみませーん」


 まもなく、店員さんがやってきた。 

 そして和久井さんは、店員さんにパフェを一つ注文した。


「青山君はどうする?」


「え? ……じゃあ、コーヒーで」


「コーヒー一つ。砂糖とミルクは?」


「いらない」


「じゃあそれで」


「かしこまりました。ご主人様」


 ……なんだか背中がむず痒いな。ご主人様って言うのやめてほしい。


「ご主人様、実は今、一つキャンペーンがあるんですが」


「え、なんですかー?」


「カップル限定のキャンペーンで、パフェ代に追加で五百円でお二人をチェキで撮影出来るんです」


「え、そうなんですかー?」


「……たっか」


 写真一枚五百円?

 商売としてボロすぎる。スマホで撮ったらタダだよ?


「どうしましょうか?」


「是非、お願いします!」


「なんでっ!?」


 というか、僕達カップルじゃないぞ?


「大丈夫」


 和久井さんは右手でグーサインを作った。

 

「お金ならあたしが出すから。配信代が駄々余っているから」


「いや、お金なら僕だって印税代が……って、そうじゃない!」


 僕は机を叩いて、立ち上がった。


「なんで僕達がチェキで写真なんて撮るのさ!」


 カップルでもなんでもないのに。

 机を叩いたせいで、僕達は店内の客の注目を一身に浴びるのだった。


 端から見たら、僕達は喫茶店で突然痴話喧嘩を始めたカップルみたいに見えているのだろうか?

 ともかく、ちゃんとした理由がないと、納得は出来ない。


「うーん……」


 和久井さんは、顎に手を当てて唸った。


「記念かな?」


「考えてなかったのかい……」


「はーい。ご主人様達、撮りますよー」


 呆れている内に、店員さんはチェキの準備を済ませて、カメラを僕達の方へ構えていた。


「はい。チーズ」


「いえーい!」


「うわっ」


 和久井さんに腕を掴まれ、やんわりとした感覚が伝って変な声が出た。

 丁度その時、チェキからフラッシュが焚かれた。


「……本当に撮られてしまった」


「写真、見せてくださーい」


 チェキから現像された写真を、和久井さんは受け取っていた。


「あはは。青山君、変な顔」


 和久井さんは、大層楽しそうに笑っていた。

ちなみに俺はメイド喫茶に行ったことがない

ならなんでわざわざメイド喫茶に行ったことにしたのかというと……確かに。

俺なんでわざわざ主人公達をメイド喫茶に行かせたんだろう?


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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