不釣合い
退屈な午前中の授業が終了すると、クラスメイト達は凝り固まった体を解したり、友達と雑談に耽ったり、思い思いの時間を過ごし始めた。
僕は自席から立ち上がって、食堂へ向かった。
高校入学以降、お昼ご飯はいつも食堂で食べていた。
「わー。和久井さん、今日のお弁当もすっごいおいしそー」
クラスでは……どこかの誰かのせいで、うるさくてとても静かにご飯を食べられそうもないから。
「でしょでしょ? お母さんと一緒に作ったの!」
「えー、すごいー! ウチ、料理とか全然親に頼りきりだよー!」
「あははー! ご飯作るの楽しいよ? ほら、誰かに食べてもらって感想もらってさ。美味しいとか言ってももらえると嬉しいじゃん? だから青山君も――ってもういねえし!」
廊下からも、教室で騒いでいる連中の声が聞こえた。
ただ、和久井さんの最後の叫び声はよく聞こえなかった。一体、なんて言ったのだろう?
そんなことはともかく、僕は足早に歩いて食堂へと急いだ。
ウチの高校の食堂は、昼休みすぐに行かないと席さえ取れないくらいに混雑してしまうのだ。
「うわぁ……」
遅かった……。
人でごった返した食堂を見て、僕は肩を落とした。
とりあえず食券購入の列に並び、食券を購入した後は配膳受け取りの列に並んだ。
購入したうどんを受け取って、僕は座れる場所がないかを探した。
「……お」
幸い、一人で食堂に来ていたおかげか、僕は一席分だけ空いている席を見つけることが出来た。
「すみません。ここ、いいですか?」
一応、隣の人に確かめてみて……。
「げ」
僕は、後悔をした。
「お、青山」
偶然空いていた席の隣に座っていた人達は、同じクラスの男子達だった。
「いいぜ、ここ空いているから」
「あ、どうも……」
「おう。でさー、マジありえなくない?」
僕が腰を下ろすと、まもなく男子達は楽しそうに雑談を始めた。
仲睦まじげに彼らが話している姿を隣で聞いていると……疎外感と気まずさを感じて仕方がない。
早く食べてここから去ろう。
僕はご飯を急いで食べ始めた。
「つうかさー……」
ズルズル、と僕はうどんを啜っていく。
「青山って、和久井さんと付き合ってるの?」
「ごふっ」
クラスメイトの発言に、僕は思わずうどんを噴出した。
「おい、大丈夫か?」
「ごほっごほっ」
「お前が変なこと言うから」
「だって、気になるじゃんか」
咳き込む僕への心配もそこそこに、クラスメイト達は雑談を続けた。
「青山と和久井さんが放課後よく仲よさそうに話してるって、結構噂になってるぜ?」
「……あー、まあ、その光景は俺も見たことある」
「だろ? 俺もあるんだよ」
……なるべく他の人には見られないようにしていたつもりだったけど、どうやらまったくそんなことはなかったらしい。
「で、どうなんだよ。青山」
茶化すように、一人のクラスメイトが尋ねた。
「おい、テッペイ。あんま聞くなよ。かわいそうだろ?」
「そうだよ。それにそもそも……ないだろ?」
僕を他所に、クラスメイト達は話を進めていく。
「まあ……方や人気インフルエンサーの和久井さん。方や一般小市民。……釣り合ってはいないよなあ」
……クラスメイト達の会話を聞きながら、僕はようやく落ち着きを取り戻し始めた。
しかし、なんだか余計に会話に入り込みづらい雰囲気になってしまった。
まあ、初めからわかっていたことだ。
陰キャの僕と、和久井さんが釣り合っていなかったことくらい。
驚きはない。
だけど……少しだけまずいなと思った。
僕達が一緒にいる姿を見られるのは、出来れば避けたかった。
何しろ彼女は、人気インフルエンサー。その人気インフルエンサーに変なゴロツキが出来ただなんて噂が流れれば、和久井さんに風評被害が襲う可能性だって少なくない。
『……母さん?』
いつかの風呂場の光景のように……また、悪夢のような現実が、僕に襲ってくる可能性が少なくない。
「まさか、付き合っているはずないだろ?」
僕は言った。
雑談に勤しんでいたクラスメイト達が、一様に僕の方へ顔を向けた。
「本当に?」
「本当さ」
僕はあざ笑った。
「君達もさっき言っていたじゃないか。僕と和久井さんは、釣り合っていないって」
これ以上ないくらい、説得力のある言葉だった。
「……じゃあ、どうして放課後よく一緒にいるんだ?」
「それは……」
言葉に詰まったが、
「勉強、教えているんだ」
適当に嘘をついた。
「勉強を……?」
「和久井さん、結構馬鹿なのか」
「……まあ、イメージはある」
酷い言い振りだ。
……まあ、イメージはあるけど。
「マジか。じゃあ勉強教えられるくらい賢くなれば、和久井さんと接点持てるかな?」
「持てるかも。うおおっ、中間テスト頑張ろっ!」
「じゃあ、僕は教室に戻るから」
うどんを食べ終えた僕は、食堂を後にした。
クラスメイト達は、僕の適当な嘘に、しばらく盛り上がり続けていた。
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最近バンド物アニメが最近多いため、売れ線に乗っかろう精神で歌物作品を書き始めたのですが、詳しくない分野への挑戦でもあり受け入れてもらえるかかなり不安でした。
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