モヤモヤ
『ワクテカチャンネル新作動画キター!』
『またコラボだ。ワクテカちゃんもだけど、この覆面歌手さん、相変わらずめっちゃ歌うまい』
『次のコラボはいつですか?』
『この覆面歌手さん、誰なんだろう?』
『ワクテカちゃんの指細くて綺麗』
『エッッッ』
僕達のコラボ第二弾は、一弾目と同様にそこそこの好評を博した。
動画再生数は三日目にして百万再生を超えて、コメントを見れば次のコラボを望む声も多数出ていることが確認出来た。
そして、僕達のコラボ第二弾の反響は、既に動画サイトだけに留まっていない。
大手SNSなどでも、ワクテカが一時トレンド入りを見せたのだ。
その際、ワクテカがバズっているのを見た古参匿名掲示板民が、またJKが一昔前のネットスラングを流行らせたのか、と自虐風自慢を見せて、ワクテカチャンネルのことだと赤っ恥を掻くというお決まり展開も見せたそうだが、それはまた別の話。
「むふふ」
とにかく、通学中の電車の中、動画を見ている僕も思わずほくそ笑むくらい……事態は随分と僕に都合の良い方向へ進みつつあった。
このままいけば、僕が当初目論んだ、当時僕を貶した連中への見返しも滞りなく進みそうだ。
……ただ、僕は気付いていた。
内心、現在のこの状況に、僕はほんの僅かに違和感も覚えていた。
『この覆面歌手、ワクテカちゃんの人気にあやかって絶賛されて、さぞ気分がいいだろうなあ』
今の僕の違和感の正体を指摘するコメントが目に入った。
……そうだ。
今、僕が大衆に歌を聞いてもらえているのは……所詮、ワクテカ……ならぬ、和久井さんがこれまで築いた土台があっての上。
今の僕は、その土台にあやかりつつ、その土台を支えるシンパに褒めてもらえているに過ぎないのだ。
「このままでいいのだろうか……?」
僕は呟いた。
本当にこのまま……彼女の人気にあやかり続けていいのだろうか?
このまま人気になったとして、僕は本当に、大衆に再び僕の歌を認めさせたと言えるのだろうか?
答えは出ないまま、電車は目的の駅にたどり着いた。
改札を出て、通学路を歩いて、早朝の学校に登校した。
「おはよう! 青山君!」
教室にたどり着くと、僕より先に登校した一人の少女に快活に呼ばれた。
「おはよう。和久井さん」
上履きを鳴らしながら、和久井さんは僕の方へ駆け寄った。
「次はいつコラボするっ!??」
そして……和久井さんは瞳を輝かせて、僕に顔を迫らせた。
「近い……」
「いつコラボするっ!?」
聞く耳は持ってくれなかった。
「……その、いつでもいいよ?」
「じゃあ今日!」
「今日!?」
「今日! そして、明日も明後日も! ずっとコラボしようよ!」
……それは。
『この覆面歌手、ワクテカちゃんの人気にあやかって絶賛されて、さぞ気分がいいだろうなあ』
脳裏に先ほどのコメントが蘇り、僕は唇を噛み締めていた。
「……和久井さんは、本当にそれでいいの?」
「別にいいよ?」
「即答……」
一瞬呆れたが、僕は首を横に振って続けた。
「わ、和久井さんは一人の力で、今のチャンネルをそこまで拡大させたんでしょ? それなのに、僕なかとずっとコラボ動画を続けていいの? 一部のファンを敵に回すことになるかもしれないんだよ?」
言った後、僕は少しだけ後悔をした。
……だって、ずっとおかしいから。
コラボを拒んだり、コラボに積極的になったり……また、コラボを否定気味に言ったり。
僕の発言は、ずっと一貫していない。
「青山君は、嫌?」
自分のダブルスタンダード具合に気付き、思わず俯いた僕に、和久井さんは微笑んでいた。
「あたしとのコラボ、嫌?」
「……嫌なもんか」
僕は握りこぶしを作っていた。
一体、僕がどれだけ……君との演奏を楽しんでいると思っているんだ。
「なんとなく、青山君の気持ちはわかった」
ゆっくりと顔を上げると……和久井さんはやれやれと言った顔をしていた。
「それじゃあ、コラボの頻度は少し考えよ? 確かに、無闇やたらにコラボを連発したら、いつか君に頼りきりになってしまいそうだ」
「頼りきっているのは……」
むしろ、僕の方ではないか。
「それじゃあ、これからはしばらく、次の曲作りへのクオリティアップってことでいい?」
「……うん」
「よし! じゃあ、今日の放課後も作戦会議しようね!」
「うん」
モヤモヤした気持ちを抱えつつ、僕達はしばらく雑談を続けた。
作業BGMばっか聞く人間だからあんまり知らんが、実際の人気動画配信者でコラボ動画ばっか投稿しまくる人とかいるんか?
いたら、作者は別にその人を否定しているわけではない、と言っておく。
擁護ではなく自己保身。
よわよわメンタルの作者を叩くのは止めて!
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!