捻くれ者
彼女の家の防音室に入ると、早速僕達は動画撮影の準備を開始した。
「ねえねえ、青山君」
和久井さんは発声練習をしていた僕の肩をちょんちょんと触った。
「何?」
「これ見て」
「……何?」
和久井さんが見せてきたのは、彼女のスマホの画面。写し出されていたものは、僕達の最初のコラボの動画だった。
「動画投稿から一週間くらいなのに、再生回数百万回超えたよ」
「凄いね」
「あれ、意外と反応薄い」
……しまった。
「あれれぇ、もしかして、青山君、この動画の伸び、逐一確認している感じ?」
「……悪い?」
僕は頬を染めて、和久井さんから顔を逸らした。
和久井さんに最初、コラボに誘われた際、散々な言い振りをした経緯があるため、正直恥ずかしくて仕方がなかった。
「あはは。青山君くらいになっても、やっぱり自分が関わる動画の反響は気になるものなんだ」
和久井さんは大層楽しそうな声色で僕を茶化した。
「僕くらいって何さ」
「よくあるんだ。大物ミュージシャンが動画配信サイトのこと見下していることって」
「……むしろ、僕みたいな小市民程、そういう数字は気にするものだよ」
「……そっか」
和久井さんは微笑んだ。
「青山君が小市民かは置いておいて、とにかく君が目立ちたがり屋な性格をしていることはよくわかった」
それはさすがに曲解が過ぎる。
「ねえ青山君。青山君は今回の曲……どれくらい伸びてくれると嬉しい?」
ただ、文句を言う前に……和久井さんに話を逸らされた。
僕に話をさせてくれない和久井さんにムスッとした顔を見せるが、僕は素直に彼女の質問に答えようと思った。
ただ、どれくらい曲が伸びてくれると嬉しい……か。
……多分。正直なところ、ある程度、この曲が伸びるのは固いと思う。
それは……僕の歌声だとか、彼女との音の融合だとか、そういう僕達の実力に左右されての考えではない。
そもそもの土台の話なんだ。
彼女が人気インフルエンサー。投稿する動画は五十万再生は当たり前。百万超えもコンスタントに出せる。
それくらい人気の彼女のチャンネルで、話題性もあるコラボ動画をすれば……ある程度、再生数が伸びるのは当然の話じゃないか。
だから、ある程度伸びると考えた前提で……更にどこまで、この曲が伸びてくれれば嬉しいか。
……たくさんの人に見てもらいたい。
僕を貶したたくさんの人を見返したい。
それが、僕が彼女とのコラボを受けた理由。
きっと……こういうのが正解なんだろう。
どこまでも伸びてほしい。
たくさんのコメントがほしい。
僕の歌をほめてほしい。
僕の歌声が綺麗だと絶賛してほしい。
僕達の曲をまた聞きたいと言ってほしい。
「動画の伸びは関係ない」
僕は言った。
「演奏の後、君に良い曲だったって言ってほしい」
……この曲は、彼女への感謝の気持ちを綴った曲。
そんな曲で……大衆からの評価なんて必要ない。
この曲はそういう曲じゃない。
この曲は……。
「この曲を歌い終えた後、君にありがとうと言ってほしい」
そしたら僕はきっとこう言う。
得意げで憎たらしい顔で……。
こちらこそありがとう、と。
「青山君って……捻くれている癖に、極稀に真っ直ぐな言葉を吐くんだね」
「……そうだよ。知らなかった?」
「うん。青山君のこと、あたしは全然、何も知らないんだね」
「お互い様だよ」
僕だって、君のこと……何も知らない。
知りたいとも……最初は、思っていなかった。
でも今は、少しだけ……。
本当に少しだけ、君のことを知りたいと思っている。
「始めようか」
彼女が撮影開始のボタンを押した。
ここまで書いた作者の感想は……主人公、チョロいな。
第二章終わり!
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!