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第9話 街

ブックマークありがとうございます。


 Aランクの魔物「ジャバウォック」を討伐したアトス達だったが、このまま先へ進むのは危険だと判断し、一旦退くこととなった。

 迷宮ダンジョンからの脱出は、またしても魔物の群れとの連戦となった。


 どうやら迷宮の魔物は時間経過とともに復活・・・・・・というよりは新たに発生するようだ。

 いまは魔物の発生数が普段の100倍以上となっているらしく、さっき来た道を戻っているにも関わらず、すでに魔物が大量に発生している、というわけだ。


 森の守護団、紅、ともにかなり疲弊している。アトスは先頭に立ち、面々が魔物に気づくよりも早く殲滅し続ける。

 時折、魔物の素材が落ちていることを不思議に思うメンバーも居たが、進んでいた時はじっくり素材を集める時間をとっていなかったため(取りこぼしだな)と勝手に納得する。

 迷宮の入り口周辺に集まっていた魔物の群れを一足先に殲滅し、アトスはようやくひと息つくことができた。


「帰りは早かったっすね!」

 無事に迷宮から出ることができて、安堵するアーサー。

 (あなたには随分と助けてもらっちゃったわね)

 ・・・・・・どうやら、エリンは気づいていたようだ。


「ここから街へはどのくらいかかるんだ?」

 アトスは街をしらない。どこにあるのかさえも。

「ここに向かって来たときは魔物と戦いながら3時間ほどだったか。帰りはほとんど魔物と出くわさないだろうから、恐らく1時間もあれば着くだろう」

 リチャードは、意味深な笑みを浮かべながら答える。どうやら、彼も気づいていたようだ。


 ──


「アトスさん、魔法石のことなんだけど」

 イリスが話しかける。

「アトスでいい。で、魔法石がどうした?」

「じゃ、じゃあアトス。魔法石の作り方を教えてもらうことはできるかな」

「あぁ。じゃあこれを持って、魔法・・・・・・そうだな、火球を放ってみてくれ」

 アトスは魔法石を手渡す。

 ドンッ!

「痛っ! 熱っ! 何するんすか!?」

 イリスの魔法ファイアーボールは魔法石に吸い込まれることなく、アーサーに直撃した。

「あ、す、すみません!!」

 自分の指示が原因であるため、申し訳なく思ったアトスは無言で回復魔法をかける。


「おかしいな。今のでいけるはずなんだが」

 魔法石を手に持ち、火球を放とうとすると、思った通り魔法石にセットされた。

「私にもやらせてくれない?」

「私もいいかしら」

 ナタリー、エリンも挑戦するが、魔法石にセットされることなく魔法は発動する。


「どうやら、アトスにしかできないようだな」

 それを見ていたリチャードが言う。

「そうね。そもそも私達には『ただの石』だものね」

「あの・・・・・・それって、僕も使えるっすか?」

 アーサーが興味津々に聞いてくる。

「魔法を使う感覚さえ持てれば、誰でも使えるはずだ」

 そう言って、アトスはいたずらっぽく笑いながら魔法石を渡す。

「魔法を発動する・・・・・・こんな感じっすか?」

 ザァー・・・

 アーサーの頭上から雨が降り注ぐ。

「なっ、なんすか、これ!?」

「ぷっ、す、すまん。ちゃんと魔法石を使えた証拠・・・ブフォッ!」

「ちょっ、ワザとっすね! もー、ひどいっす」


 街へ向かう一行の足取りは軽い。

 ともに死線をくぐり抜けたからか、ほんの数時間前に出会ったばかりとは思えない仲の良さだ。


「ところで、アトスさん」

「さんは要らないぞ。で、なんだ?」

「魔法石を作るのは簡単っすか?」

「あぁ、簡単だ。元となる魔法石さえあればな」

「じゃあ、街で店出さないっすか? ぜひ売って欲しいっす」

「これを、か?」

「あんたね、それがどれほどの価値か・・・・・・全く。魔力が無くても魔法が使えるのよ? 欲しいに決まってるじゃない」

 ナタリーは、やはりどこか怒っているような気がする。

「そうねぇ。私たち騎士団も冒険者たちも、かなり楽になるわね~」

 エリンがつけ加える。

「そうなのか。・・・・・・ま、とりあえず街に行ってからだな」

 アトスはまだ街を知らない。どんなところで、どんな人が居て、どんな物が売られているのか。それを見てから考えても遅くはない。


 ──


「あれか」

 森を抜けると、少し先に街らしきものが見えた。

 アトスの知っている『街』とは違い、周囲に城壁のようなものが見える。この世界では、街は常に魔物の襲撃に備えておかなければならないのだ。


「あれが俺たちの街『フォーレ』だ。美しき緑の都・・・・・・というほど大きくはないが」

 リチャードは誇らしげに言い、小さく微笑む。

 木々と融合した美しい城壁に囲まれたその街からは、生命いのち息吹いぶきを感じられる。


「美しいな。だが・・・・・・」

「城壁の脆弱性ぜいじゃくせい、か?」

 アトスが感じた疑問。それは城壁と融合した木そのものである。

 緑あふれる城壁は確かに美しい。

 だが、魔物はもちろんのこと、戦争や盗賊団などに襲われた場合、その木を使って容易たやすく城壁を越えることができるのではないか。

 軍事にうといアトスだが、幼少期の山遊びの経験がその疑問を抱かせたのだ。


「実はな、あの木に見える物の大半は木ではない。城壁の上や一部の枝葉は本物の木だが、それ以外は木に似せた壁なのだ」

「なるほど、そういう事か」

 そう簡単に破られる城壁なら、とっくに対策をしているか、または街が滅んでいるかのどちらかだろう。

 (浅はかだったな)

 と、アトスは自嘲した。


 ──


「そちらは?」

 一行が街に入ろうとしたその時、守衛が待ったをかける。


「身分証はお持ちでしょうか」

 アトスもオトも、当然そんなものは持っていない。

 (どうやら街に入るのは難しそうだ)

 街がどんなところか少し楽しみにしていたアトス達だが、身分が分からないものを通さないのは当然だろう。

 むしろ、きちんと街を守っていることに好感が持てる。


「彼らはアトスとオト。我々を助けれくれた恩人だ」

 リチャードが言う。

「この二人が居なければ、俺たちは全滅していただろうな」

 クレイドも続く。


「そう言えば、先に戻られた方々から『駆け付けた二人組に助けていただいた』と伺いました。それが、そちらのお二方ということですね」

「そういうことだ」

「大変失礼いたしました。では、お通りください」

「あんたは仕事をしただけだ。気にしなくていい」

 一々相手の気遣いを無用だと伝えるのがアトスの癖だ。気を遣うのも遣われるのも好きではない。その意思をはっきり伝えるため、誤解されることもしばしばあったようだ。


「まずはギルドに向かう」

 こっちだ、とリチャードが歩き出す。


「この街では、ギルドと騎士団が協力して治安を維持しているんだ」

「それは珍しいことなのか?」

 アトスは不思議に思う。

「珍しくはない・・・・・・が、そうでない所もある」

 クレイドは一瞬、嫌気が差したような表情を浮かべる。

「街を守る、その想いはどちらも同じ。協力しないなんてあり得ないと俺は思っている」


「ところで、冒険者ギルドが街を守るというのは、どういうことなんだ?」

「ボウケンシャって、あちこち旅をするんじゃないの~?」

 アトスの質問に、オトが加える。

「冒険者はギルドからの依頼クエストをこなすことで報酬を得る。次から次へと旅をしていると資金不足になってしまうのさ。だから、ある程度の期間は街に滞在することが多いんだ。それに・・・・・・」

「着いたぞ」

 クレイドの説明が終わる前に、ギルドに着いたようだ。

「ま、おいおい、な」

 (おいおいが多いな)とアトスは心の中で苦笑する。


 ──


「戻ったぞ」

「お帰りなさい!」

 先に戻った面々が、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「あぁ。皆も無事に戻れてよかった」

「リーダーたちも無事でよかったです!」

「おっと、まずはこの二人を紹介しておこう」

 アトスとオトが前に送り出される。

「こちらが「「「「あっ、あの二人組! あなた達のおかげで助かった。ありがとう!」」」」」

 リチャードが紹介するよりも早く、一斉にお礼を言う面々。

「あぁ、無事でなによりだ」

 アトスが応える。


「おいおい、まず紹介させてくれ」

 そう言ってリチャードがアトスとオトを森の守護団メンバーに紹介すると、しばらくお礼と賛辞が飛び交った。


「アトス、オト、こっちに来てくれ」

 クレイドに呼ばれる二人。

 そこには、見知らぬ女性が立っていた。


「初めまして。私はこのギルドの管理人、ミィカです。よろしくお願いしますね」

「俺はアトス。よろしく」

「オトだよ~。よろしくね」

「アトス、冒険者登録をしないか」

「冒険者登録?」

「あぁ。冒険者ギルドに登録することで、冒険者証が発行される。それがあれば依頼をこなすこともできるし身分証にもなる」

「身分証か。あった方がよさそうだな」

「オトも登録できる?」

「えぇ、問題ないですよ」


「では、ここに名前と職業を書いてください」

 (ねぇ、アトス。ぷろぐらまーって書いちゃダメだよ! )

 (おっと、そうか。俺たちは『魔法使い』だったな)

 (そうだよ~)


「こちらが身分証です」

「これが・・・・・・」

 (免許証みたいだな)


「さて、これからどうする?」

「そうだな。しばらくはこの街に居たいんだが・・・・・・」

「それなら、いくつか宿があるからあとで案内するよ」

「・・・・・・一つ問題があってな」

「もしかして、一文無しか?」

「あぁ」

「・・・・・・本当に面白い奴だな」

 クレイドは呆れたように言う。


「これを使え」

 銀貨と銅貨が数枚入った小袋だ。

「いや、さすがに貰えない」

「俺たちを助けてくれたお返しだ。受け取ってくれ」

「分かった。ありがとう」

「礼を言うのはこっちの方だ」


 ──


「明日、ギルドに顔を出してくれないか」

 宿まで案内してくれたクレイドが言う。

「あぁ、構わない」

「助かる。じゃ、また明日な」


「入ろうか」

「うん。楽しみ~♪」

 この世界に来て初めての宿。それは、オトにとっても初めての宿だった。


 ──


「長い一日だったな」

「そうだねー」

「なぁ、オト」

「なに~?」

「・・・・・・いや、なんでもない」


 この世界に来てから2ヶ月。

 特に何も考えず、魔法が使えること、魔法をプログラミングできること。ただそれを楽しんできた。

 もう夢の中だとは思っていない。

 それでも、どこかふわっとした、幻想ファンタジーの世界に一人迷い込んだような、そんな気分でいた。

 自分が思ったことが、それに近しい形で現れる。魔法にしても、魔物にしても。

 魔物との戦いで冷や汗をかいた事もあった。

 それさえも自分の願いであったように感じていたのだ。


 だが今日、オトと出会い、森の守護団、紅と出会った。

 それに、あの恐ろしい魔物ジャバウォックとの戦い。

 それは、ふわふわした幻想的な世界とは違っていた。

 アトスにとって、この世界が一気に現実味リアリティを帯びた一日だった。


「だいじょうぶ?」

 今日の出来事を振り返り、アトスの表情は強張っていた。

 そんなアトスを見て、オトが心配した面持ちで声をかけた。


「あぁ、もう大丈夫だ」

 オトのおかげで、アトスは気を取り直すことができた。

 独りだったら、不安に押しつぶされていたかも知れない。


「ありがとな」

「?」

 キョトンとするオト。

 それを見て微笑むアトス。


「そろそろ寝るか」

「うん」


「ふかふか~♪」

 初めてのベッドは、驚くほどに優しく、身体を包み込む。

 オトはあっという間に眠りに落ちた。

 (そうか。オトは鳳凰だ。ベッドも布団も初めてなんだな)

 眠りにつくオトを眺めていたアトスも、程なく眠りについた。


第10話は明日アップ予定です。


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