第52話 決戦直前
「我が国以外にも動きがあったのか?」
「あぁ。ユマランにはこの国と同じように、竜とそれより強い魔物の陽動作戦を仕掛けて来ていた。
他の四国については、四凶と呼ばれる四聖獣の天敵が出現したようだ」
「四凶! まさか、本当に居たのか」
「知っているのか?」
「伝説として知っている、というだけだが。
世界に仇なす邪悪の化身。
竜よりも遥かに強力な魔物だ、と」
「そんな伝説が残っているのか。
確かに竜より遥かに強いようだ。
だが、竜種最強と思われるバハムートの方がランクは上のようだ」
「バ、バハムート!? 空想の魔物じゃ無かったのか」
「あぁ、お前達が竜討伐に行っている間、ホターラカを襲撃したのがバハムートだ」
「な・・・・・・それで、この被害で済んだのは奇跡としか言えないな」
「いや、ホターラカの被害はその前に受けてしまっていたようだ」
「もしかして、バハムートが出現してからは被害が無かったのか?」
「そういう事だ。
もっとも、第2騎士団の結界のおかげでギリギリ、というところだったがな。
あれが無ければ、王宮は避難者とともに木っ端微塵となっていただろう」
「・・・・・・っ!」
王家、第1、第3騎士団の顔が青褪める。
無理もない。
自分達もこの街を守るために竜と死闘を繰り広げていたのだが、その裏でまさか守るべき王都に滅亡の危機が迫っていたなんて聞かされたのだから。
「そ、そう言ってもらえると嬉しいのですが、そもそもアトス殿がバハムートを倒してくれたからこの街は助かったのです。
悔しいですが、我々だけではどうしようもありませんでした」
「それは確かにそうかも知れないが、お前達第2騎士団の結界が無ければ王宮を守れなかったのも事実だ。
きちんと国王陛下に報告しておかないとな」
エルメスは恐縮していたが、活躍した分はしっかりと評価を受けるべきだ。
「エルメス、ご苦労。第2騎士団の働きもしっかりと評価させてもらうよ」
「はっ! ありがとうございます!」
「エルメス、貴方に第2騎士団を任せて良かったわ。
これからも頼むわね」
「勿体ないお言葉。ありがとうございます」
アイリンとエルメスは王妃と騎士団長というよりは師弟関係のように見える。
エルメスが魔法使いであることを考えると、本当にそうだったのかも知れない。
「今後についてだが、他国の様子を見てから考えるのでもいいか?」
まずは四聖獣達の戦いの結果が出てからだ。
「あぁ、そうだね。我々もまずは王都の復旧計画を立てつつ、他国の情勢を伺うとしよう。
と言っても、アトスからの情報を待つしかないけどね」
「じゃ、俺はちょっとマサムネの所に行ってくる。
何か情報が入り次第、伝えに来るから待っててくれ」
──
「マサムネ、頼んでおいた腕輪型の魔法具は出来たか?」
「あぁ。いくつか見た目のバリエーションを作ってみたが、装着方法はどれも同じだ」
その内の一つを手にしたマサムネは、もう一方の手首に軽く叩きつける。
すると、魔法具は手首に巻き付いた。
「外す時はこうやって剥がそうとすれば簡単に取れる。
磁石のように引っ付いているから、勝手に外れて困ることもまずないだろう」
なるほど。この仕組みなら手首の太さに関係なく、誰でも装着することが出来る。
さらに、ワンタッチで装着し、簡単に外すことが出来る。
「さすがだな。まさかこんなに便利な仕組みがあるとは思いもよらなかった」
「そうだろう? 実は、俺達のような職人道具に似たような物があるんだ。
その仕組みを応用してみたんだ」
「誰でも簡単に付け外しが出来て良いと思う。
それに、見た目も豪華な物や落ち着いた物があって助かる」
「アトス、窮奇を倒せそうだったんだけど、逃げられちゃった」
オトだ。
「逃げた?」
「うん。かなり弱らせたんだけど、突然飛んで行っちゃった。
びっくりしたのと、ボクも結構ダメージがあったから追いかけられなかった」
「そうか。とにかく、オトが無事で良かった」
「ありがと」
「どこに向かって飛んだかは分かるか?」
「オリアマリンビアから北西の方角ってことぐらいしか分からないや」
「十分だ。済まないがしばらくそのままオリアマリンビアで様子を見てくれ」
「はーい」
「アトス、こっちも檮杌に逃げられた。
ニカラールから南西の方角に飛んで行った」
「儂も渾沌を逃がしてしもうたわい。
セントリーマからはやや東寄りの南に逃げて行ったぞい」
「私も饕餮に逃げられたわ。
まさか逃げ出すなんて思ってもなくて・・・・・・ごめんなさい」
「気にするな。で、どの方角に飛んで行ったか分かるか?」
「アイソルからは南東、やや南寄りかな? に飛んで行ったわ」
『お兄ちゃん、四凶が逃げて行った方角なんだけど、多分ジパングだよ』
「ジパングか。やはりあそこに何かあるってことだな」
「オト、ショウ、ジョグ、ユキ。
今いる国にこれ以上の異変が起きないか、周囲の確認を頼む」
俺は再び、タンバサの王宮に向かう。
──
「アヌグラ・マニュー団の動きだが、奴等は恐らくジパングに居る」
「ジパング。魔物の島だね」
「そうだ。俺も何度かあの島に足を踏み入れたが、魔物の数もレベルも段違いだった」
「一人で行ったのかい?」
「あぁ。何か様子がおかしいという情報を得てな。
二度目に行った時はとんでもない魔物が数体居た。
と言っても、バハムート程では無かったがな」
「さすがはアトスね。
あの島に一人で行って無事に帰ってくるなんて」
「今のシャルロやアイリンなら何とかなるんじゃないか?」
「私達には竜人を倒すのが精一杯よ。
貴方が『とんでもない魔物』と言うぐらいだから、もっと強い魔物が居たんでしょう?」
「そうだな。確かに海龍や吸血鬼の王は竜人よりも遥かに強かった」
「さすがに私達には無理ね」
「アトス、またジパングに行くの?」
サラが心配そうに見つめてくる。
思えば、サラには心配をかけてばかりだな。
「サラ、心配させて済まない。
だが、このままアヌグラ・マニュー団を放っておく訳には行かないんだ」
「分かっています。
アトス、どうかご無事で」
「ありがとう」
「アトス、妹を泣かせるようなことはしないでくださるわよね?」
シエラも心配してくれているらしい。
「もちろんだ」
「あぁ、そうだ。
皆に渡したいものがある。
と言っても、シャルロには無いんだが」
「あら、アトスったら女性に気配りするタイプには見えなかったけど」
「そういう訳じゃないんだ。
新しい魔法具が出来てな。
これの効果が『魔法の威力を3倍に引き上げる』なんだ。
だから、魔法使いじゃないシャルロには意味がなくてな」
「なるほどね。僕だけ仲間外れかと勘違いするところだったよ」
そう言いながらシャルロは笑っている。
「魔法の腕輪って言うんだが、付け方が独特でな。
こうすると簡単に装着できて、外すときはここを剥がすように引っ張ると簡単に外せるんだ」
俺はマサムネから教わった魔法の腕輪の取り付け方、取り外し方を説明する。
「素敵なデザインね。
あら? サラのは少し違っているのね」
「サラには豪華すぎず、少し可愛らしさを感じる物が似合うと思ってな」
「「アトス、頬が赤いわよ?」」
アイリンとシエラが同時にからかうように言う。
「た、たた、他意はないぞ」
しどろもどろになってしまった。
「アトス、ありがとうございます!
ずっと大切にしますね」
サラは、とても嬉しそうな顔で喜んでくれている。
元々は戦力増の事しか考えていなかったんだが、これもマサムネのおかげだな。
「アトス、オリアマリンビアはもう大丈夫みたい。
強い魔物も居ないし、数も少ないよ」
オトからの報告とほぼ同時に、他の四聖獣達からも同様の報告があった。
「よし。じゃあ皆でジパングに行こう。
アヌグラ・マニュー団をその企みごと壊滅させるぞ!」
皆の所に転移門を開き、ジパングに集合する。
これまでジパングに来た時と明らかに雰囲気が違う。
元々禍々しい雰囲気があったのだが、比べ物にならないぐらい禍々しくなっている。
「皆、ここにはランクS8の魔物も当たり前に出てくる。
油断するな!」
最終決戦はもうすぐだ。
次話は明日アップ予定。
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