第4話 修行の日々
それから俺は、来る日も来る日も魔法の練習と魔物討伐を繰り返した。
毎日、また明日もこの夢の世界に来られることを祈りながら。
・・・いや、薄々気づいているよ?
さすがにもう、夢じゃないんじゃないかって。
だって、ゴブリンに殴られた時も、オークにやられた時も、すごく痛かったし。
痛いどころか、マジで死ぬかと思って変な汗が出たし。
それでもこれが現実だと、受け入れるのに時間がかかっただけだ。
そう言いながら俺は、夢じゃないと気づいて、むしろワクワクしている。
だって、いつまでもこのファンタジーの世界で暮らせるってことだから。
ま、そんなわけで俺は大幅にレベルアップしたし、魔法石もたくさん集まった。
今のステータスはこんな感じ。
生命力: 255 / 255
魔 力: 16383 / 16383
スキル:プログラミング
プログラマー過ぎるステータスだ(笑)
もちろん魔法も色々と開発・改良した。
例えば「解毒」
オークとの一戦後、まず最初に開発したというか、使えるようになったのはこれなんだが、そのきっかけは・・・
──
あれは、森を散策中に「ちょっと休憩するか」と座り込んだ時だった。
足首の辺りに強い痛みを感じて見てみると、蛇が咬みついていた。
ヘビはすぐにやっつけたんだけど、そのあとなんだか意識が朦朧としてきて・・・
毒を受けたとすぐに気づき、解毒魔法を使おうとしたんだけど、意識が朦朧としているせいでうまくイメージできず、魔法が発動しなかった。
どんどん生命力が奪われていく中で、とっさに回復魔法を使ったのがファインプレイ。
回復すると、意識がわりとはっきりしてくれた。そこで改めて解毒魔法を使ってみると、無事に発動してくれて事なきを得た。
──
と、そんなことがあったのだ。
さすがにあの時はもうダメかと思ったね。
もし、とっさに回復魔法を使っていなかったら・・・。
ま、無事だったんだから結果オーライってことで。
その一件で、探索魔法がいかに大切かってことに気づいた俺は、探索魔法の改善を試みた。
なぜかというと、探索魔法は範囲を少し広げるだけで、大量の魔力を消費するからだ。
最初に使っていた探索魔法は、円全体を探知する。
つまり、円の面積に応じて魔力を消費する。
そこで、円全体ではなく円周の線上を探知することにした。
探索魔法を使用すると、探知する範囲が点から円に拡がって行く。その円周に触れたものを探知する。
この方式だと、円周に応じて魔力を消費することになる。
元の方式よりも魔力消費をグッと減らすことができた。
この探知円を、例えば1秒間隔で出す。
半径100m程度の探知なら、自然回復する量と同程度の魔力で使える。
つまり、魔力消費は実質0!
スマホの月額料金みたいだな(笑)
──
俺はさらに、探索魔法にプログラミングの"繰り返し"という制御を組み込んだ。
まず手始めに、1秒間隔で60回探索魔法を発動するプログラム魔法を開発。
1度発動すると、魔力が切れない限り1分間探索し続けるのだ。
だけど、俺はそこで満足しなかった。
「止める」というまで探索を続けて欲しい。
そう考えた俺は【常設魔法】という仕組みを編み出した。
これは、魔法を常に発動しておく、というものだ。
これを組み込んだ"常時探索"魔法を発動しているおかげで、毎秒半径100mの範囲を探索し続けている。
俺が止めるまで、常に探索は続くのだ。
こうして、気づかないうちにヘビに咬まれる心配もなくなった。
その後も魔法の練習と探索を続けているうちに、不便なことに気づいた。
せっかく探知しても、それが何なのか分からない。
魔物かと思って駆けつけると、そこに居たのは小動物だった、なんてことがよくあった。
そこで、俺はさらに新しい仕組みを取り入れて探索魔法を強化したのだ。
・・・え?
もう説明はいいって?
あと一つだけだから、もうしばらく辛抱していただきたい。
自らが編み出したものや改良したものについて、嬉々として語る。
それがプログラマーなのだ。
さて、気を取り直して。
最後の探索魔法の改良は【トリガー式魔法】だ!
ババーン!
・・・なにそれオイシイの?
って顔が目に浮かんだが気にせず説明を続けることにする。
トリガー式魔法とは"「何か」をきっかけに発動する魔法"だ。
これをどう探索魔法に組み込んだかというと、「探知した」をきっかけに、探知したモノを鑑定するようにした。
探索魔法で広がる線|(円周)に鑑定魔法を乗せると魔力消費が激しい。
だが「トリガー」は言わばセンサーのようなもの。
消費する魔力は微々たるものだ。探知円に乗せても問題ない。
つまり、現在の最新式"常時探索"魔法はこのようになっている。
・1秒ごとに以下を繰り返す
・点から円を拡げていき、その円周上を探索する
・何かを探知した場合、それを鑑定する
シンプルな仕組みの割に、かなり素晴らしい機能だ。
これを開発したおかげで、俺は常に周囲にどんな生物がいるかを認識できるのだ。
(実は少し弱点もあるのだが、恐らくそれを突かれることはないだろう)
とまぁ、魔法の練習と改良を繰り返すうちに、魔力の制御にもずいぶん慣れた。
例えば火球なら、米粒ぐらいから人がすっぽり入るぐらいの大きさまで、自由自在だ。
本当はもっと大きくできそうなんだけど、結果が怖くて試していない。
──
そんなこんなでレベルもかなり上がったし、探索魔法も改良できた。
そろそろこの拠点を捨てて、もっと遠くまで足を伸ばしてみようと思う。
森の外も見てみたいしね。
というわけで、今までは拠点を中心に円を描くように散策していたのだが、これからはもっと遠くへ行くことにする。
・・・
ゴブリンやオークを探知するたびに討伐しながら、どんどん先へと進んでいく。
(この森にいる魔物は、ゴブリンとオークだけなのか?)
そんな疑問を感じながらも、見つけるたびに討伐に向かう。
自分が成長する楽しさと、魔法石を集める楽しさ。
これは中々止められない。
そんな中、ふと新しい魔物を探知した。
どれどれ・・・
種族: コボルト
弱点: 雷
コボルト、か。
強さはゴブリン以上、オーク未満ってところかな。
ま、初めてだし、戦ってみるか。
──
コボルトは親しげに笑みを浮かべている。
もしかして、人を襲うタイプの魔物じゃないのか?
近づいてみたが、特に警戒している様子もない。
(うーん、倒すのはちょっと気が引けるなぁ)
俺も笑みを返し、そのまま通り過ぎることにした。
(こんな魔物もいるんだな)
そう思いながら、俺はコボルトとすれ違った。
・・・と、その時!
「ケケッ」
コボルトは、厭らしい笑みとともに背後から短刀で切り付けてきた。
「痛ってぇ!」
背中を切られた。熱い。
くそう、背中の痛みは武士の恥、ってか!
武士じゃねーし、不意打ちだし!
と一人ボケ突っ込みをする余裕はあった。
・・・いや、かなり痛いし血がダラダラ流れているんだが。
回復魔法を使い、コボルトと対峙する。
さっきの親しげな笑みが嘘のように、厭らしい顔をしている。
(いや、まぁ嘘だったんだけどね。見事に騙された)
「油断させてから襲ってくるとは。狡猾なやつだな」
そう言いながら、刻印からの落雷をお見舞いする。
恐らくマーキングしなくても落雷は避けられないとは思うが、とりあえずマーキングするという癖がついているのだ。
コボルトは、何が起こったのか分からないまま力尽きた。
決して強くはなかったが、あの狡猾さには要注意だ。
色んな魔物がいるということだな。
──
さて、と。
再び俺は、あてもなく歩き始めた。
(タス・・ケ・・・テ)
第5話は明日アップ予定です。
序章完結します。