第39話 オリアマリンビア
オトが目指すオリアマリンビアは、ユマランから遥か南東に位置している。
鳳凰の姿に戻って一直線に大洋を飛び越えていく。
しばらくすると視界から陸地が消え、見渡す限りの海が広がる。
穏やかな気候に包まれた見晴らしの良い海の上を、オトは鼻唄を謳いながら優雅に舞いながら飛んでいく。
ふと、目の端に島が映った。
タンバサ国より少し小さめの、特に特徴のなさそうな島。
だが、どことなく嫌な雰囲気が漂っているように感じる。
「せっかく気分よく飛んでいたのにな」とオトは呟く。
嫌なものを気にしても仕方ないし、今はオリアマリンビアに急がなければならない。
気持ちを切り替えて、再び気分よく飛んでいく。
・・・・・・
・・・
遥か前方の空が赤くなっているのが見える。
まるで空が燃えているかのようだ。
さらに近づくと、燃えているのは空ではなく山だった。
大陸の東端から南に長く延びた陸のその先端に近い部分が激しく燃え盛っている。
オトは火を苦としないが、先端に回り込んで街を探す。
炎の山と海のちょうど真ん中に大きな街──いや、都市があった。
山側に大きな城壁を携えているものの、炎の影響は避けられないだろう。
それほど広く大きな炎が立ち昇っていた。
街に入ると、人々は薄着で生活をしていた。中には上半身裸の者も居る。
「ねぇ、王宮ってどこにあるの?」
住民に場所を聞き、真っすぐに王宮に向かう。
「タンバサ国王からの紹介状を持ってきたんだけど」
守衛に話すと、驚いた様子で慌てて確認してくれた。
「こちらへどうぞ」
謁見の間ではなく応接間のようなところに案内される。
「オリアマリンビア女王イザベラよ。単刀直入に聞くわね。あなたはどうやってここに来たのかしら?」
「ボクはオト。ここへは海を渡ってきたよ」
「そう、海を。北の山が燃えているのは見たかしら。あの山火事の影響で他国との交流は完全にストップしているのよ。なにしろ暑すぎて道を通ることさえ出来なくてね」
「そうなんだ。あの火、ボクが消してこようか。」
「そんなことが出来たら苦労しないわ。我が国も何度も消火活動を行ったのよ。だけど、消火するよりも火が付く方が早くてね。海も熱されて漁にも影響が出て困っているのよ」
「消してよかったんだ。じゃ、とりあえず一旦全部消してくるね!」
「えっ?」
女王は驚いたが、それを気にせずオトはさっさと山に向かっていった。
燃え盛る山の上を、オトはまるで炎とダンスするかのように舞う。
オトが通り過ぎると、炎は跡形もなく消え去った。
上機嫌で街へ戻るオトの耳に、大歓声が聞こえる。
山の炎が消えた。
何度消火してもすぐに炎が湧き上がり、国家全体で諦めていた山火事。
常夏の国を灼熱の国に変えてしまったあの山火事が、消えた。
誰が、何をしたのかは分からないが、とにかく街に涼しさが戻ってきた。
ここは常夏の国なので本当はまだ涼しくはないのだが、炎が消えるとともに気温が一気に下がったため人々は涼しいどころか肌寒さを感じるほどだ。
上裸の者など慌てて服を探す始末。
数週間この国を悩ませていた憎き炎が消えた。
その喜びが、一斉に国中から巻き起こったのだった。
「消してきたよ」
「な、なんと、あの炎を消せる者が居るとは・・・・・・」
「でもね、なんとなく、また火がつきそうだよ。原因が分かれば良いんだけど」
「関係あるか分からぬが、山火事が発生する直前、山の麓にある迷宮からいつもと違う魔物が湧いていると報告があった。幸いにもこの街を襲ってくることは無かったのだが、燃え始めてからは熱くて近寄れず、調査も出来ていないのよ」
「その迷宮、怪しいね。・・・・・・そうだ。この紹介状を読んでおいて。その間に迷宮を調べてくるね」
「紹介状・・・・・・ほう、シャルロ殿から。火のことと言い、アナタは一体何者なの?」
イザベラが尋ねた時にはすでにオトは居なかった。
オトはあっという間に王宮を飛び出し、迷宮に向かっていた。
──
山の麓に向かうと、確かに魔物がぞろぞろと湧き出ていた。
それもSランクオーバーの魔物ばかりが。
さらに、魔物の群れは街の方へ向かって移動している。
「これは倒しておいた方がいいよね♪」
オトは楽しそうに魔物を殲滅しながら進む。
そのままの勢いで洞窟に入ったオトを、さらに強い魔物の群れが待ち受けていた。
だが、オトはまるでお遊戯をしているかのように魔物の間をすり抜けていく。
魔物たちは何が起こったのか分からないまま、全滅する。
「ちょっと物足りないな」
なんてボヤキながら迷宮を進み、オトは十階層にたどり着いた。
そこは、まるで火山の火口のようであった。
溶岩から熱気が漂っている。
火口を守るかのように、魔物たちが群れを成している。
「そんなんじゃボクには勝てないよ♪」
成体となってから、さらにメキメキと成長を続けているオトにとって、Sランクを少し超えた程度の魔物は相手ではなかった。
オトはあっさりと魔物を殲滅した。
すると、火口の中から巨大な竜が出現する。
火竜だ。
「また君か。一対一でやるのは初めてだね♪」
あの時はまだ、オト一人では火竜に勝つことは出来なかった。
「今のボクはあの時とは違うよ」とオトは不敵な笑みを浮かべる。
その笑みを見て、火竜は猛り狂う。
大咆哮とともに火口から大噴火が起こり、溶岩が降り注ぐ。
笑いながら溶岩を避けるオトに火竜がレーザーを放つ。
「炎の攻撃はボクには効かないよ♪」
どれほど強力であろうと、成体となったオトに炎は通じない。
渾身の一撃が通用せず、火竜は焦ったのか雄叫びを上げながらオトに突進し、鋭い爪で引き裂く。
オトは余裕の表情でそれを交わし、火竜のお腹を殴りつける。
苦悶の表情を浮かべる火竜をオトは蹴り飛ばす。
そのまま火竜は力尽きるかの様に見えたが、その直後、火竜の身体が凝縮されていく。
そして、火竜は火竜人へと進化した。
「ここからが本番だよね」
前回は四聖獣の共闘で何とか倒した相手だ。
「前みたいには行かないよっ!」
オトは突進しながら渾身の右ストレートを放つ。
火竜人はそれを片手で受け止め、カウンター気味にパンチを放つ。
オトも片手で受け止める。
「やっぱり強いな。でも負けないよ♪」
そこから激しい突き蹴りの応酬が始まる。
お互いギリギリで躱し、決定打を許さない。
膠着状態のまま数分が過ぎた。
(楽しーな。でも、今は急がなきゃだよね)
オトはいつまでもこの戦いを続けていたかったが、それよりも自分の役割を優先する事を選んだ。
「アトス、ちょっといい?」
「どうした?」
オリアマリンビアに到着してからのことを説明する。
そして今、火竜人と戦っているが膠着状態が続いており、このままでは時間が過ぎていくばかりだと。
「ちょうどいい。ユキと代わってくれ」
目の前に転移門が開く。
オトはよく分からないまま、転移門をくぐる。
目の前には氷竜人が居た。
「こいつを倒したらいいんだね♪」
──
オトと入れ替わりでユキが火竜人と対峙する。
「この子を倒したらいいのね」
ふふっ、と笑いながら、ユキは氷塊をぶつける。
ジュッ、という音とともに氷は一瞬で蒸発してしまう。
「あら、あなた火が得意なのね。道理でこんな熱いところに」
ユキの話を遮るかのように、火竜人は炎のレーザーを放つ。
「私はね、水も得意なのよ」
ユキの背後から、途轍もない水の流れが押し寄せてくる。
【大津波】は炎のレーザーをかき消し、そのまま火竜人をも飲み込んだ。
「あら、あっけなかったわね」
「アトス、終わったわよ」
「さすがだな。まるで息ピッタリだ」
「あら、どういうことかしら?」
「オトもちょうど今、氷竜人を倒したようだ」
「そういうことね」
「じゃ、オトと代わってくれ」
再び転移門が開き、二人は交代した。
──
オトがオリアマリンビアに戻ると、そこにアトスがやって来た。
「アトス。今から女王に報告しに行くんだ。一緒に行く?」
「いや、俺は他にも迷宮が無いか近くを探ってくる」
「そっか。じゃ、また後でね」
オトは王宮に戻り、応接間でイザベラに報告する。
「やっぱりあの迷宮が原因だったみたいだよ。火竜が居たからね。多分アイツの火が漏れ出てたんだと思うな」
「火竜!? アナタ、もしかして一人で火竜を倒したと言うの?」
「うん、そうだよ」
ホントはボクが倒したのは氷竜人なんだけど、それを言うと混乱しちゃうよね。
「と、とんでもない子ね、アナタ。でも、これで我が国を苦しめていた炎はもう発生しないということね。オト、ありがとう」
「どういたしましてっ!」
「それから、紹介状の件を読んだわ。当然、我が国も対アヌグラ・マニュー団戦線に加わらせてもらうわ」
「やった! ありがと」
「お礼を言うのはこちらの方よ。国の危機を救ってもらって、世界の危機を報せてもらって・・・・・・。感謝してもしきれないわね」
「ん-、でもね。ボクじゃなくてボクの主のおかげなんだよ」
「主? この書状に書いてあったアトスという者のことかしら」
「うん。アトスはね、ボク達の主なんだ」
「一度会ってみたいわね」
イザベラの言葉を聞いていたかのように、転移門を開いてアトスが入ってきた。
「えっと、今のは何かしら・・・・・・」
驚きの余り、目の前に居るのが誰かと言うことを聞き忘れるイザベラ。
「転移門のことか?」
「イザベラ、この人がアトスだよ」
「アナタがオトの主ね」
「あぁ。アトスだ。よろしくな」
「オトの主と言うだけあって、本当にとんでもない人ね」
転移門など、これまで見聞きしたことも無い。
世界の常識を覆すほどの現象を目の当たりにして、一国の女王たるイザベラが驚きを隠せなかった。
「そう言えば、迷宮が二つあったぞ。どちらもアヌグラ・マニュー団が魔物を仕掛けてたから倒してきた」
「何がいたの?」
「雷竜と森竜だな。ま、強さ的には他の竜と同じだな」
「・・・・・・フフ。アナタも竜を一人で倒せるのね」
「アトスはボクの主だよ? 竜なんて何匹いてもアトスには通用しないよ!」
「そ、そう」
イザベラは驚きの余り言葉を失ったようだ。
「イザベラ、これからアヌグラ・マニュー団がどう動くか分からない。何があっても対応できるように準備しておいてくれ」
「えぇ。いつでも騎士団が出陣できるようにしておくわ」
こうして最後の国、オリアマリンビアも対アヌグラ・マニュー団戦線に加わった。
──
アトスはまだ安心できなかった。
当のアヌグラ・マニュー団がいつ、どこで、何をしてくるか全くわからないのだ。
今、アトス達に出来ることは、自分たちや各国の戦力を少しでも高めることだけだ。
「一旦集まろう」
アトスは四聖獣を集める。
世界を滅亡させないためにどうすればいいか。今出来ることは何か。
それを話し合うために。
次話は明日アップ予定。
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