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第38話 アイソル

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 北の大地に築かれた巨大都市『アイソル』

 防衛戦略のもと複数あった都市を一つの巨大都市と化し、国の名を冠した要塞都市である。

 その結果、厳しい自然環境に生存する強力な魔物にも平然と対処してのけるほどの自衛力を手にしていた。


 猛吹雪の中、アイソルにやって来たユキ。

 氷と水を扱うユキにとって、猛吹雪と言えども何の障害にもならなかった。

 だが、そこに暮らす人々にとっては看過できない大問題であったようだ。


 王宮にたどり着いてユキが国王宛ての書状──シャルロの紹介状──を届けに来た、と守衛に伝えたが「今はそれどころではない」と追い返された。

「世界に滅亡の危機が迫っているのよ?」とユキは食い下がるが「数週間におよぶ異常な吹雪で我が国は今存亡の危機に瀕しているのだ!」と再び門前払いされる。

「この吹雪を止めたら話を聞いてくれるのかしら?」

「そんなことが出来たら、皇帝陛下にお目通しが叶うやも知れん」

「そう。じゃ、止めてくるわね」

 ユキは王宮から離れて應龍おうりゅうの姿に戻り、白く美しい翼を振るう。

 すると、吹雪がピタリと止んだ。


「これで、王に会わせてくれるのよね?」

「ま、まさか、そんなことが・・・・・・。分かった。皇帝陛下に取り次ぐのでしばし待たれよ」

 ・・・・・・

 ・・・

「こっちだ」

 数名の騎士を引き連れてやって来た男がユキを案内する。

 どうやら歓迎されているわけでは無さそうだ。

「お前が吹雪を止めて見せたというのは本当か」

 皇帝は玉座に腰を掛けたままユキを睥睨しながら訊く。

 偉そうな奴ね、と心の中で思いながら応える。

「えぇ、そうよ。と言っても、一時的に止めたに過ぎないわ。異常気象の原因に何か心当たりはあるのかしら?」

 ユキの物言いに、騎士達が武器を構える。

 皇帝陛下に対し対等な物言いをするとは無礼な奴め、と言ったところだろう。

「よい」

 だが、騎士達を皇帝が抑える。

「異常気象が始まる直前に、大陸の最北端に位置する迷宮ダンジョンから魔物が異常発生しているとの報告があった。関係があるかどうかは分からぬがな」

「そう。きっと関係あるわね。同じようなことが今世界各地で起こされているわ」

「起こされている? 何者かが意図して行っているというように聞こえるのだが」

「その通りよ。私はそれについて話に来たのよ。この『タンバサ国王の紹介状』を読んでもらえば分かるはずよ」

「ほう、タンバサ国王から。お主、あやつに認められた存在ということか」

「えぇ、そうなるわね」

「面白い奴よ。ところで、まだ名を聞いていなかったな」

「ユキよ。あなたは?」

「ユキ、か。私はアイソル皇帝ピョートルだ」

「ピョートル、タンバサ国王の紹介状を渡しておくから読んでもらえるかしら。私は北の迷宮に行ってくるわ」

「「「「貴様、皇帝陛下の名を呼ぶどころか呼び捨てにするとは何様だ!!」」」」

「やめい! 貴様等にあの吹雪を止めることが出来たのか? この者は吹雪を止め、さらには原因と思われる迷宮に調査に向かうと言っておる。同じことが出来るものが居るのか!」

 ピョートルが騎士団を一喝する。

 騎士団からすればユキの言動は不敬にも程があると言ったところなのだ。とは言え騎士団のユキに対する言動は、国を救おうとしている者に対する態度でないことに違いはなかった。


「じゃ、行ってくるわね」

 そう言って踵を返し、帝都を出たユキ。

 帝都から十分離れたところで應龍おうりゅうの姿に戻り、北の迷宮に向かう。

 北に向かうと、段々魔物の数が増えてきた。

 より魔物が多い方に向かえば迷宮があるに違いない。

 視界に入った魔物を殲滅しながら、魔物の湧いてくる方へ向かう。


 アトスのAI魔法により、四聖獣が倒した魔物の素材は自動収集されている。

 その様を初めて目にしたユキは、アトスの凄さを実感して呟く。

「とんでもない魔法ね。それでこそ私の主よ」

 ふふっ、と微笑むユキの眼前に、迷宮の入り口が現れた。


 ──


 迷宮の中に入るとさらに魔物の数は多く、さらに強いランクの魔物ばかりだった。

 並みの冒険者や騎士団では到底太刀打ちできないだろう。

 だが、成体に進化した聖獣であるユキにとっては取るに足らない魔物ばかり。

 あっという間に殲滅しながらズンズン進む。

 十階層目にたどり着くと、そこはまるで迷宮の外に出たかのように、一面の雪景色が広がっていた。


「あらあら、ここは魔物の街かなにかかしら」

 イエティ、グリフォンなどのS2ランク以上の魔物が群れを成している。

 狂暴な目つきでユキを睨みつけ、唸り声を上げながら迫ってくる。

「可愛い子たちね。少し遊んであげるわ」

 遊んであげると言いながら、ユキは無数の巨大な氷刃で魔物の群れを襲う。

 寒さには滅法強い魔物も居たが、氷刃による物理的な攻撃によりあっという間に全滅した。


「あっけなかったわね」

 物足りなさそうな表情を浮かべるユキ。

 だが、すぐに不敵な笑みへと変わる。


 ユキの眼前に、氷竜アイスドラゴンが出現したからだ。

「面白そうな相手じゃない」

 そうは言ったものの、一瞬で氷竜を倒してしまうユキ。


「あら、見かけ倒しね」

 これで異常気象も収まるだろう、とユキが踵を返そうとしたとき、氷竜に異変が起きる。

 倒したはずの氷竜。そのエネルギーと質量が凝縮し、人の姿に変わる。


 ここに、氷竜人ドラゴニュートが誕生した。


「あら、それがアナタの本気ってことかしら?」

 ユキは少し嬉しそうな表情を浮かべながら、氷竜人に警戒している。

 氷竜人の身体が動いたと思った瞬間、その身体はユキの目の前にあった。

 間一髪で攻撃を躱し反撃するが、氷竜人は素早くステップバックして躱す。


 幾度となく繰り返される攻防。

 だが、互いの膂力も戦闘スキルもほぼ互角のため、膠着状態が続く。

 お互いが得意とする氷の攻撃も通用しない。


 楽しい相手ね。だけど、あまり時間をかけている場合じゃないわ。

 互角の相手との戦いは楽しく、いつまでも続けていたいという思いもあったが、今は時間的猶予はない。

 ユキはアトスに声をかける。

「アトス、今いいかしら」

「あぁ、どうした?」

 ユキは簡潔に状況を説明する。

 アイソルに起こった異常気象、それを止めるために迷宮に来たこと。そこで氷竜人と戦っているが、膠着状態が続いていること。

「それならちょうどいい。オトと代わってくれ」


 目の前に転移門が開き、オトがやって来た。

「ユキ、オトと交代だ。向こうへ行ってくれ」

 ユキも転移門をくぐる。


 ──


「こいつを倒したらいいんだね♪」

 オトはワクワクしているようだ。


 氷竜人は目の前に現れたオトに速攻を仕掛ける。

 だが、オトは難なくブロックして反撃する。

 氷竜人もブロックしてさらに反撃。

 ユキと同じく、オトvs氷竜人も膠着状態が続くかに見えた。

 だが、氷竜人が少しずつ消耗している。


「ボクは炎が得意なんだ。攻撃するときも、君の攻撃を防ぐ時も、常に炎を纏っているからね。氷は少しずつ融けちゃうよー♪」

 焦りが見え始めた氷竜人は、捨て身のタックルでオトを吹っ飛ばす。

 自らの身体を傷つけながらの攻撃だが、オトが吹っ飛んだ隙に全エネルギーを集中し、最大の攻撃を放つ。

 オトはニヤリと笑い、極太の聖炎砲セイントフレアで迎撃する。

 それは氷竜人の放ったアイスレーザーを飲み込み、氷竜人ごと消し去った。


「終わったよ」とアトスに連絡する。

「いいタイミングだ。じゃ、またユキと交代してくれ」

 再び転移門が開き、二人は交代した。


 ──


 ユキは皇帝に報告に来た。

 北の迷宮の異常を解決したことを伝えると、ピョートルは驚きと感謝を述べた。

 そして、シャルロからの紹介状を読み、世界を取り巻く状況について理解した、と。

「帝国も対アヌグラ・マニュー団戦線に参加する」

「良かった。これでこの国も大丈夫ね」

「あと二つ迷宮があるのだが、そこには騎士団を向かわせよう」

「あら、それは止めておいた方が良いわ」

「「「「なぜだ!? 我らでは力不足というのか!」」」」

「そうね。迷宮には恐らくドラゴンが居るわ」

「「「「竜・・・・・・か。我らなら倒せなくもない!」」」」

「あら、そう。犠牲を出してでも倒すと言うのね。じゃ、これは知ってるかしら」

 ユキは続ける。

「竜はね、倒したと思ったら竜人に進化することがあるのよ。そうなれば、元の数倍の強さになるの。それでもアナタ達に倒せるかしら?」

「「「「竜の数倍だと・・・・・・。それは・・・・・・」」」」

「私の主に任せておきなさい。あっという間に終わらせてくれるわ」


「もう終わったぞ」

 謁見の間に転移門が開き、アトスがやって来た。

「今のはなんだ」

 皇帝陛下が驚愕を抑えつつ尋ねる。

「あぁ、転移門と言ってな」

 アトスは簡単に説明する。

「お前がこのユキの主か?」

「あぁ。俺はアトス。魔法使いだ」

「魔法使い、ふふっ、ふははは! 面白い男よ。お主等、余に仕えぬか」

「そう言うのは間に合ってる。俺はどこの国に仕える気もない」

「「「「き、貴様、皇帝陛下のお誘いを無碍にする気か!!!」」」」

 どうにもこの国の騎士団は気性が荒いらしい。

 この場に居た者達に加え、さらに奥から騎士団が出てきてアトスとユキを取り囲む。

「先ほどからの無礼、もはや見逃すことはできぬ!」

 騎士団長らしき男が叫び、騎士団が襲い掛かってくる。

「やれやれ」

 アトスは騎士団全員を同時・・に結界で拘束する。

「手荒な真似はしたくない。俺達は敵ではなく、対アヌグラ・マニュー団の仲間じゃないのか?」

「そうだな。確かに余はアヌグラ・マニュー団戦線に参加することを決めた。騎士達の非礼を許してやってくれ。余に対する忠義の現れなのだ」

「あぁ、分かっている」

「礼を言う」

「何かあったらまた連絡する」

「うむ。騎士団がいつでも招集に応じられるよう手配しておく」


 こうして、無事にアイソルも対アヌグラ・マニュー団戦線に加わった。

 その裏で、同じく交渉にあたっていたオトの動向は如何に?


 ──


「アトス、私はぶち切れそうだったぞ。あの者達の行動は許しがたい」

「まぁそう言うな。彼らには彼らの正義があるってことだ」

「・・・・・・アトスがそう言うなら、それでいい」

「ありがとう」


 ユキは照れくさそうに、いじらしい笑顔を見せた。


次話は明日アップ予定。


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