第37話 ニカラール
セントリーマから東、広大な森を抜けるとそこには大きな砂漠が広がっている。
ニカラール王都を目指し、ショウは砂漠を駆けている。
砂をまき散らしながら走るこの感覚をショウは思い出していた。
どれくらい昔だったかは定かではないが、遠い昔、同じようにオアシス目指して砂漠を駆け抜けたことがあった。
──
その昔、魔物の度重なる襲撃に嫌気がさした人々が森を抜け、辿り着いた砂漠のオアシス。
砂漠という過酷な環境ではあるものの、見晴らしのよさと魔物の少なさは人が棲み処とするのに十分であった。
初めは小さな村ほどの規模であったが、評判を聞きつけた人々が次々に移住し、次第に街となり、都市となった。
それが砂漠の国『ニカラール』の始まりだ。
魔物に襲われない国という評判は人を集め、国民の数がどんどん増えていった。
オアシスの水だけでは生きていけなくなるほどに。
だが、幸いにも水魔法を使えるものが多くいた。その為、オアシスを枯らすことなくニカラールの人々は暮らしていくことができた。
気候変動により、度々水不足に陥ることはあるものの、生命を脅かされるほどではなかった。
こうして、砂漠に誕生した国は繁栄を極めた。
他国との交流も次第に増え、砂漠の迷宮からしか算出されない希少な宝石のおかげで国庫も潤った。
世界で最も裕福な国と言われるほどであった。
・・・・・・
平和な街、砂漠のオアシス。世界の羨望を集め、栄華を誇ったニカラール。
その一角が突如として弾け飛んだ。
そして、国全体に響き渡る巨大な咆哮とともにそれは姿を見せた。
地に潜む獰猛な魔物、地竜。
強国が総力を挙げて討伐できるかどうかという、凶悪な魔物だ。
魔物の襲撃から逃れ、形だけの騎士団しかないニカラールには、地竜に抗う術はなかった。
地竜は猛り狂い、次々に街を破壊していく。
絶望の淵に立たされた人々は、ただ黙って終焉の時を待つしかなかった。
そこに現れたのは、美しい一本角に青白く輝く神々しい身体をした、馬のような存在。麒麟だ。
地竜と対峙し、敢然と立ち向かうその姿に人々は次第に希望を抱き始める。
吹き飛ばされ、叩きつけられても、何度も立ち上がり、徐々に地竜を追い詰めていく。
祈るように、縋るように麒麟を応援する人々。
そしてついに、地竜は倒れた。麒麟が勝利したのだ。
ニカラールは大歓声に包まれる。
甚大な被害を被ったものの、颯爽と現れたこの神の使いとも思える神々しい存在に救われたのだ。
亡国の憂いを救った救世主、麒麟はニカラールの神としてあがめられることとなり、復興のシンボルとして麒麟の像が立てられた。
麒麟は国を救いに来たというよりも、強力な魔物の気配を追ってきたらニカラールが襲われていて、結果的に救うことになっただけだ。
それでも、人々に感謝されて悪い気はしなかったし、聖獣としての役割を一つ果たせたという実感はあった。
──
そう言えばそんな事があったなと、ショウは思い出していた。
今のニカラールはどんな街になっているだろうと思いを巡らせながら、砂漠のオアシスにたどり着いた。
街に踏み入れたショウの目に入ってきたのは、建物の壁に持たれこんでいる人々の姿だった。
水魔法で水を出して飲むショウの姿を、羨むような目で見つめている。
地面はところどころヒビが入るほどに乾燥しきっており、酷く干ばつしていることが見て取れた。
「水が無いのか?」
近くの子どもに尋ねてみると、子どもは力なく頷いた。
「ほら」
水を出し、その場にいる全ての人に飲ませる。
詳しく話を聞くと、どうやらここ数カ月ほとんど雨が降らず、オアシスも枯れてしまった。
水魔法を使える者の魔力では到底足りない深刻な水不足となっている、と。
対アヌグラ・マニュー団戦線どころではない。まず水不足を何とかしなければ。
そう思ったショウは、オアシスだった場所へ行きギリギリまで水を貯める。
「あ、あなたは?」
「俺はショウ。この国の王に話があって来た」
「ショウ殿、これだけの水をありがとうございます」
「あぁ」
「ところで、王に話と言うのは?」
「世界に関する重要な話だ。タンバサ国王の紹介状もある」
「タンバサの。それでは案内します」
オアシスの守衛に案内され、王宮へ向かう。
「この方はショウ殿。タンバサ国王の紹介状を持って王に会いに来られた。さきほど国民に水をふるまい、さらにはオアシスに水を満たしてくださった素晴らしいお方だ」
「分かった。では王に取り次ぐのでしばしお待ちを」
・・・・・・
・・・
「ショウ殿、中へどうぞ。ここからは私が案内します」
執事のような男がやってきて、ショウを案内してくれた。
「こちらで王がお待ちです。中へお入りください」
言われるままに中に入る。
「ショウ殿。ニカラール国王ラムセスじゃ。此度の水の件、誠に感謝いたします」
「あぁ。それにしても酷い干ばつだな」
「うむ。原因が分からず困っておるのじゃ」
アヌグラ・マニュー団は世界各地に異常を起こしている。
もしかして、この干ばつもアヌグラ・マニュー団が関係しているのか?
「アヌグラ・マニュー団を知っているか?」
「アヌグラ・・・? 聞いたこともない」
知らないか。
やつらはいつも迷宮に何かを仕掛けていた。今回も同じかも知れない。
「近くに迷宮はあるか?」
「一番近い迷宮は北東と南にある迷宮のどちらかじゃな」
「ふむ・・・・・・ちょっと調べに行ってくる。戻ってくるまでにこれを読んでおいてくれ」
シャルロの紹介状を渡し、北東の迷宮に向かう。
──
迷宮に近づくにつれ、魔物の数が増えて来た。ランクも高い魔物ばかり。
やはり、この迷宮にもアヌグラ・マニュー団がなにか仕掛けていそうだ。
迷宮に入り、魔物を片っ端から倒しながらどんどん奥へと進んでいく。
あっという間に辿り着いた十階層は、砂漠の世界だった。
Sランクの魔物が群れを成している。
その奥から、懐かしくてとても不快な気配を感じる。
【極限電撃嵐】を放ち、魔物を一層し奥へ進む。
そこに居たのは、かつて麒麟が倒した魔物、地竜だった。
と言っても種族が同じというだけで、当然別の個体である。
ショウは、かつての麒麟と同じレベルには達していない。個の力では地竜に劣っている。
だが、今のショウは【アトスの加護】と【持続強化×10】によって大幅に強化されている。
ショウは何ら臆することなく、地竜と対峙する。
迷宮全体が激しく震えるほどの咆哮の後、地竜は激しくその尻尾を振り回す。
それを難なく躱し、地竜に帯雷突進を放つ。
すると、あっけなく地竜は倒れ込んだ。
今のショウにとって、地竜は恐るるに足りない魔物だったのだ。
これで干ばつも収まると良いのだが、とショウが踵を返した瞬間、地竜のエネルギーが膨れ上がる。
慌てて振り向くと、そこには地竜が人の姿となった『地竜人』が居た。
地竜とは比べ物にならない速さと力で突進する。
「グッ!」
ショウは手を交差してブロックし、そのまま思いっきり蹴り上げる。
上空に吹っ飛んだ地竜人は天に手をかざす。
轟音がなり響き、天から降り注ぐ隕石が次々にショウを襲う。
二つ、三つとショウは隕石を躱す。
そこを狙って地竜人はその身を岩と化して突進する。
「グハッ!」
まともに喰らってしまったショウのダメージは大きい。
だが、大技を連発した地竜人の疲労もかなり大きいようて、追撃は来ない。
一気に決める!
ショウは麒麟の姿に戻り、エネルギーを凝縮する。
身体が透き通っているように見えるほど、高エネルギー体と化したショウの神速帯雷突進が地竜人の身体を貫く。
地竜人は再生することも叶わず、消滅した。
──
王宮に戻ったショウは、国王ラムセスに迷宮の一件を報告する。
一方ラムセスはシャルロの紹介状を読んでおり、対アヌグラ・マニュー団戦線への参加を表明した。
「ショウ、お主のおかげで我が国は救われた」
「まだ安心はできない。他の迷宮にも異変が起こっている可能性はある」
「そうじゃな。頼んでばかりで申し訳ないのじゃが、そちらもお願いできぬか?」
「我が主に任せれば、あっという間に片が付くだろう」
そう言ってショウはアトスを呼ぶ。
突如目の前に現れた転移門と、そこから出てきたアトスに驚愕するラムセス。
「あんたが国王か? 俺はアトス。よろしく」
「あ、あぁ。ニカラール国王ラムセスじゃ」
突然のことに面を喰らいつつ、挨拶を返すラムセス。
国王としての威厳、尊厳は、かろうじて保たれた、かも知れない。
・・・・・・
・・・
ショウは昔のことも含めてアトスにすべてを話す。
「麒麟の姿に戻って見せてやればいい」
ショウが麒麟の姿に戻ると、国王以下その場に居たすべてがひれ伏し、感涙する。
「ショウ・・・、まさか麒麟じゃったとは。。。我が国は再び麒麟に救われたのじゃ!」
王宮に大歓声が起こる。
「終わったぞ」
その隙に、アトスは南の迷宮の異変を片付けていた。
森竜が出てきたのだが、アトスにとっては他愛もない魔物だった。
それを聞いて、ニカラール国王はアトスの像を立てても良いか? と進言したが、アトスはかたくなに断り続けた。
アトスの思惑とは異なり、ニカラールは聖獣麒麟とその主、アトス神を崇め奉ることとなった。
──
「やれやれ、少し疲れたな」
アトスが零す。
「珍しいな。森竜はアトスにとっても強敵だったのか?」
「いや、森竜は大したこと無かったが、神だなんだと言われたのがな」
「大したことない、か。それこそまさに神ではないか」
「やめてくれ」
こうして、ニカラールも無事? にアヌグラ・マニュー団戦線に加わった。
昔と違い、騎士団も強化されているようで、もしもの時には力となってくれるだろう。
さて、残るは二国。
オトとユキは上手くやれているだろうか。
次話は明日アップ予定。
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